CAPM 資本資産価格モデル

CAPM(Capital Asset Pricing Model:資本資産価格モデル)は、企業価値評価や株価算定において、株主が企業に投資する際に要求する収益率である自己資本コストを算定する代表的な方法です。DCF法で企業価値を評価する際には、WACC(加重平均資本コスト)の構成要素として利用されます。

CAPMでは、自己資本コストを「リスクフリーレート+β×マーケット・リスク・プレミアム」で算定します。リスクフリーレートには一般に国債利回りなどが用いられ、マーケット・リスク・プレミアムは株式市場へ投資することで投資家が追加的に求める収益率を示します。βは、市場全体の値動きに対して対象会社の株式がどの程度変動するかを示す指標です。

上場会社であれば自社株価からβを推計できますが、非上場会社では市場価格が存在しないため、事業内容や収益構造が近い上場会社のβを参考にすることが一般的です。その際、各社の財務レバレッジの影響を除いたアンレバードβを求め、対象会社の想定資本構成を反映して再レバレッジするなどの調整を行います。

実務上は、CAPMの計算式そのものよりも、どの国債利回りを使うか、どの類似会社を選ぶか、どの市場リスクプレミアムを採用するかといった前提設定が重要です。評価結果に大きな影響を与えるため、評価基準日時点の市場環境と対象会社のリスクを踏まえ、第三者に説明できる根拠を整理しておくことが重要です。

関連コラム:DCF法による株価算定における割引率

iDeCoの2026年12月改正

iDeCo(個人型確定拠出年金)は、2026年12月1日から大きく制度が改正されます。今回の改正では、掛金の上限額が引き上げられるほか、加入可能年齢も拡大され、老後の資産形成と税負担の軽減という両面で、これまで以上に活用しやすい制度となります。

特に大きく変わるのが会社員・公務員などの第2号加入者です。企業年金がない場合、iDeCoの掛金上限は現在の月額2万3,000円から月額6万2,000円へ大幅に引き上げられます。企業型DCや確定給付企業年金(DB)などに加入している場合は、企業年金等とiDeCoを合わせて月額6万2,000円が上限となります。したがって、実際に拠出できるiDeCo掛金は、企業型DCの事業主掛金やDBの「他制度掛金相当額」などによって異なります。

また、自営業者・フリーランスなどの第1号加入者については、iDeCoと国民年金基金等を合わせた上限が月額6万8,000円から7万5,000円へ引き上げられます。一方、会社員等に扶養されている第3号加入者の上限は月額2万3,000円のままです。

さらに、一定の要件を満たす方については、iDeCoの加入可能年齢が70歳未満まで拡大されます。高齢期にも働く方が増える中、60歳以降も税制優遇を受けながら資産形成を継続できる点は大きな変更です。

iDeCoの掛金は、その年に支払った全額が小規模企業共済等掛金控除として所得控除の対象になります。そのため、所得税・住民税の負担が大きい方ほど、掛金増額による節税効果も大きくなります。

新しい限度額は、2026年12月分の掛金から適用されます。掛金を増額する場合には手続が必要となるため、勤務先の企業年金制度や他制度掛金相当額を確認したうえで、無理のない範囲で拠出額を検討することが重要です。iDeCoは原則として途中で自由に引き出すことができないため、節税効果だけでなく、生活資金や将来の資金需要も踏まえて活用しましょう。

【参考】私的年金制度、iDeCoの改正のポイント(厚生労働省)

関連コラム:iDeCoについて

DCF法による株価算定

DCF法(Discounted Cash Flow法)は、会社が将来生み出すと見込まれるキャッシュ・フローを現在価値に割り引くことで、企業価値や株式価値を算定する方法です。M&A、事業承継、資本政策、非上場株式の評価などで広く利用される代表的な企業価値評価手法の一つです。

DCF法では、まず対象会社の事業計画を基礎として、将来のフリー・キャッシュ・フローを予測します。一般的には、営業利益に税金、減価償却費、設備投資、運転資本の増減などを反映して、事業から生み出されるキャッシュ・フローを算定します。

次に、その将来キャッシュ・フローをWACC(加重平均資本コスト)などの割引率を用いて現在価値に換算します。さらに、事業計画期間終了後の継続的な価値であるターミナルバリューを加えることで事業価値を求め、非事業用資産を加算し、有利子負債等を控除することで株式価値を算定します。

DCF法の大きな特徴は、対象会社固有の将来収益力や成長性を株価算定に反映できる点です。類似上場会社が少ない企業や、今後大きな成長が見込まれる企業、事業構造の転換期にある企業などでは、特に有効な方法となります。

一方で、算定結果が事業計画や割引率、永続成長率などの前提条件に大きく左右される点には注意が必要です。将来売上高や利益率を過度に楽観的に設定した場合、株式価値も実態以上に高く算定される可能性があります。また、WACCがわずかに変化するだけでも評価額が大きく変動することがあります。

そのため実務では、複数の成長率や割引率を用いた感応度分析を行い、一定の幅を持った株式価値として検討することが重要です。また、DCF法だけでなく、マルチプル法や純資産法など他の評価手法と比較し、算定結果の合理性を確認することも有効です。

DCF法での株価算定では、計算式そのもの以上に、事業計画の実現可能性、正常収益力、設備投資や運転資本の見通し、割引率の設定などの前提条件を適切に検討することが重要です。DCF法は精緻な評価が可能な反面、専門的な判断が求められる手法といえます。

関連コラム:純資産法による株価算定

ファミリーガバナンスについて

2026年6月5日、経済産業省は「ファミリーガバナンス・ガイダンス」を公表しました。ここでいうファミリービジネスとは、創業者やその一族が、世代を超えて株主または経営者として企業の存続・発展に重要な役割を果たす会社を指します。ガイダンスは主として非上場の中堅規模の企業を念頭に置いていますが、その考え方は上場・非上場、企業規模を問わず参考になります。

ファミリービジネスには、長期的な視点で経営できることや、迅速な意思決定が可能であることなどの強みがあります。一方で、会社の所有、経営、家族関係が重なり合うため、後継者の選定、株式の承継、配当方針、役員報酬、親族間取引などが、経営上の問題であると同時に家族間の問題にもなり得ます。経営者個人の調整力によって均衡が保たれている間は表面化しなくても、相続や世代交代を契機として、長年蓄積した認識の違いが一気に顕在化することがあります。

公認会計士の立場から見ると、ファミリーガバナンスの第一歩は「数字と関係性の可視化」です。誰がどの株式を保有し、議決権がどのように分布しているのか。会社とファミリーとの間に、貸付金、借入金、債務保証、不動産賃貸その他の取引がないか。事業承継時に必要となる資金や税負担を、会社のキャッシュ・フローで賄えるのか。こうした事実を一枚の図や一覧表に整理するだけでも、関係者の認識のずれが明らかになります。

その上で、①一族として大切にする理念・価値観、②会社経営に参加する親族の要件、③後継者の選定・育成方法、④株式の保有・譲渡、配当、親族間の紛争解決方法などを話し合います。必要に応じて、ファミリー会議の設置やファミリー憲章の策定、定款・株主間契約・遺言などへの反映も検討します。ただし、立派な文書を作ること自体が目的ではありません。合意したルールが実際の意思決定に使われ、環境の変化に応じて定期的に見直されることが重要です。

ガイダンスには、取組事項を「推奨」「重要」「選択」に区分したチェックリストも用意されています。しかし、すべての項目を形式的に満たせばよいというものではなく、株主構成、家族の人数、事業規模、成長段階などを踏まえ、自社に適した仕組みを選ぶことが求められます。

公認会計士は、財務諸表、株価算定、資金計画、内部統制、税務上の影響などを横断的に整理し、感情的になりやすい議論に客観的な材料を提供できます。また、法的な整備が必要な場合には弁護士、相続税や贈与税の検討には税理士など、他の専門家と連携する役割も担います。

ファミリーガバナンスは、相続が発生してから慌てて整備するものではありません。むしろ、経営も家族関係も安定している時期に対話を始めることが重要です。会社の未来と家族の関係を切り分けるのではなく、双方を持続可能な形で結び直すこと。それこそが、ファミリーガバナンスの本質ではないでしょうか。

参考

ファミリーガバナンス・ガイダンス参考資料 経済産業政策局

外形標準課税制度の見直し

外形標準課税は、法人事業税の一部として、所得だけでなく企業規模に着目して課税する制度です。従来は、原則として資本金1億円超の法人が対象とされていたため、資本金を1億円以下に減資することで外形標準課税の対象外となるケースがありました。しかし、令和6年度税制改正により、こうした減資による外形標準課税回避への対応が強化されています。

1.外形標準課税とは
外形標準課税とは、法人の所得だけでなく、付加価値額、資本金等の額、所得金額を基準として法人事業税を課税する制度です。
そのため、赤字法人であっても、一定の税負担が生じる点が特徴です。

2.改正前の問題点
従来は、資本金が1億円以下であれば、原則として外形標準課税の対象外でした。
そのため、大企業であっても、資本金を1億円以下に減資することで、外形標準課税の対象から外れるケースがありました。
特に、資本金を資本剰余金へ振り替えるだけの形式的な減資は、企業規模の実態が変わらないにもかかわらず課税対象から外れるため、制度趣旨とのズレが指摘されていました。

3.令和6年度税制改正の概要
令和6年度税制改正では、外形標準課税の対象法人について見直しが行われました。
主なポイントは、資本金1億円以下であっても、一定の場合には引き続き外形標準課税の対象となる点です。具体的には、前事業年度に外形標準課税の対象法人であった法人について、当該事業年度の資本金が1億円以下であっても、資本金と資本剰余金の合計額が10億円を超える場合には、外形標準課税の対象となるとされています。
また、財務省の令和6年度税制改正大綱の概要でも、資本金が1億円以下であっても、資本金と資本剰余金の合計額が一定額を超える法人を外形標準課税の対象とする方向性が示されています。

4.実務上の重要ポイント
(1)単純な減資では効果が限定的に
今後は、単に資本金を1億円以下にしただけでは、外形標準課税の対象外になるとは限りません。
特に、資本金から資本剰余金への振替型の減資については、実質的な資本規模が維持されているため、改正後の判定で対象となる可能性があります。
(2)資本金等ではなく資本剰余金も見る
従来は資本金の額に注目しがちでしたが、改正後は、資本金+資本剰余金の合計額が重要になります。
そのため、減資後の貸借対照表上の資本構成を確認する必要があります。
(3)グループ法人にも注意
持株会社化や分社化により資本金を抑えている場合でも、制度趣旨に照らして対象判定が必要となります。資本政策だけでなく、グループ全体の税負担を見据えた検討が求められます。

外形標準課税の見直しは、形式的な減資への対応、実質的な企業規模による判定、資本金と資本剰余金の合計額の重視という点に特徴があります。

外形標準課税対策としての減資は、資本金だけではなく、資本剰余金を含めた実質資本で判断する時代になったと解釈できます。
減資は税務負担の軽減策として検討されることがありますが、令和6年度税制改正後は、単純な資本金の引下げだけでは期待した効果が得られない可能性があります。外形標準課税への影響、会社法上の手続、財務諸表への表示、金融機関や取引先への見え方も含め、事前に慎重なシミュレーションを行うことが重要です。

【参考】東京都主税局 外形標準課税の対象法人の見直し及び中間申告義務判定に関する改正について

関連コラム:外形標準課税とは