純資産法による株価算定

純資産法は、会社が保有する資産から負債を差し引いた純資産額を基礎として、株式価値を算定する方法です。非上場会社の株価算定、事業承継、M&A、株主間の株式売買などで利用される代表的な評価手法の一つです。

最も基本的な考え方は、貸借対照表上の資産から負債を控除し、その純資産額を発行済株式数で割ることで1株当たりの価値を算定するというものです。ただし、実務では帳簿上の純資産をそのまま使うとは限りません。

例えば、長期間保有している土地や有価証券について、帳簿価額と現在の時価に大きな差がある場合には、時価へ修正して評価することがあります。このように資産・負債を時価ベースで見直して算定する方法は、時価純資産法と呼ばれます。必要に応じて、含み益に対応する税金を考慮したり、回収可能性の低い債権や簿外債務を反映したりすることも重要です。

純資産法のメリットは、会社が現時点で保有している財産価値を基礎とするため、算定方法が比較的分かりやすく、客観性を確保しやすい点です。特に、不動産会社や資産管理会社など、多額の資産を保有する会社の評価と相性が良い手法です。

一方で、将来の収益力を十分に反映しにくいという弱点があります。高い成長性やブランド力、顧客基盤、技術力などを持つ会社では、純資産額以上の価値がある場合も少なくありません。そのため、収益力を重視するDCF法や、市場評価を参考にするマルチプル法と併用して検討することが一般的です。

公認会計士による株価算定では、帳簿数値を機械的に使用するのではなく、各資産・負債の実態や含み損益、税効果、簿外項目などを確認し、評価目的に応じて適切な修正を行うことが重要です。純資産法はシンプルな手法ですが、会社の実態を適切に反映するためには、専門的な判断が求められます。

マルチプル法による株価算定

マルチプル法は、企業価値・株式価値を算定する代表的な手法の一つで、類似する上場会社の株価指標を参考に対象会社の価値を推定する方法です。類似会社比較法や市場株価倍率法と呼ばれることもあります。

代表的なマルチプルには、PER(株価収益率)、PBR(株価純資産倍率)、EV/EBITDA倍率、EV/売上高倍率などがあります。例えばEV/EBITDA倍率を用いる場合、対象会社と事業内容、規模、成長性、収益性等が類似する上場会社を複数選定し、それらのEV/EBITDA倍率を対象会社のEBITDAに乗じて企業価値を算定します。その後、有利子負債や現預金等を調整することで株式価値を求めます。

マルチプル法の大きな長所は、市場で実際に形成されている株価を基礎とするため、DCF法と比較して計算過程が分かりやすく、市場参加者の評価を反映しやすい点です。M&A、事業承継、資本政策、非上場株式の価値検討など、さまざまな場面で利用されています。

一方で、算定結果は「どの会社を類似会社として選ぶか」に大きく左右されます。同じ業種であっても、成長率、利益率、財務体質、事業ポートフォリオが異なれば、適用される倍率にも差が生じます。また、株式市場全体が過熱または低迷している場合、その影響を受ける点にも注意が必要です。

そのため、実務上はマルチプル法だけで株価を決定するのではなく、DCF法、純資産法、過去の取引事例等と組み合わせ、複数の観点から企業価値を検討することが重要です。

公認会計士による株価算定では、単に計算式へ数値を当てはめるだけでなく、類似会社の選定根拠、財務数値の正常化、非事業用資産や有利子負債の調整など、算定の前提を適切に整理することが求められます。マルチプル法は簡便に見える手法ですが、客観性と合理性を確保するためには、対象会社の事業内容と財務状況を十分に理解したうえで適用することが重要です。

DCF法による株価算定における割引率

企業価値や株式価値を算定する代表的な方法の一つに、DCF法(Discounted Cash Flow法)があります。

DCF法では、事業計画などに基づいて将来生み出されるキャッシュ・フローを予測し、それを現在価値に割り引くことで企業価値を算定します。

このとき、評価結果に大きな影響を与えるのが割引率です。

将来キャッシュ・フローの予測が同じであっても、割引率を何%とするかによって企業価値は大きく変わります。そのため、DCF法による株価算定では、事業計画の妥当性と同じくらい、割引率の設定根拠を適切に整理することが重要です。

DCF法の割引率は投資家が要求する収益率

割引率を簡単に表現すると、投資家がその会社に投資するに当たり要求する期待収益率です。

例えば、安全性の高い国債と、業績変動の大きいベンチャー企業への投資では、当然ながら投資家が求める収益率は異なります。

事業リスクが高い会社ほど高い収益率が求められるため、DCF法で使用する割引率も高くなります。

そして、割引率が高くなるほど将来キャッシュ・フローの現在価値は小さくなり、結果として企業価値・株式価値は低く算定されます。

つまり、

リスクが高い会社 → 割引率が高い → 株式価値が低くなる

という関係があります。

企業価値を算定する場合にはWACCを使用することが一般的

DCF法では、企業全体に帰属するフリー・キャッシュ・フロー(FCF)を用いて事業価値を算定する場合、一般的にはWACC(加重平均資本コスト)を割引率として使用します。

WACCは、企業の資金調達を、

・株主から調達する自己資本
・銀行借入や社債などの有利子負債

に分け、それぞれの資本コストを企業の資本構成に応じて加重平均したものです。

負債については支払利息が法人税上損金となることによる節税効果を考慮するため、一般的には税引後の負債コストを使用します。

WACCを算定する際には、単に現在の借入金利だけを見るのではなく、自己資本コスト、負債コスト、資本構成、実効税率などを総合的に検討する必要があります。

CAPM

自己資本コストの算定には、CAPM(Capital Asset Pricing Model)を利用することが一般的です。

CAPMでは、概ね次の考え方で自己資本コストを算定します。

自己資本コスト = リスクフリーレート + β × 株式リスクプレミアム

実務上、DCF法による株価算定で問題になりやすいのが、割引率の数字だけが先に決まってしまうケースです。

例えば、

「中小企業なので10%程度にする」
「以前の株価算定でも8%だったから今回も8%にする」

といった理由だけでは、割引率の合理的な説明として十分とはいえません。

割引率は評価基準日時点の市場環境や評価対象企業のリスクを反映して算定する必要があります。

DCF法は計算式そのものは比較的シンプルですが、適切な株価算定を行うためには、「なぜこの割引率を使用したのか」を第三者に説明できることが重要です。

M&A、株式譲渡、組織再編、相続・事業承継、ストック・オプション、少数株主との取引などにおいてDCF法を利用する場合には、算定結果だけではなく、割引率を含む各評価前提の合理性について十分に検討する必要があります。

関連コラム:CAPM 資本資産価格モデル

CAPM 資本資産価格モデル

CAPM(Capital Asset Pricing Model:資本資産価格モデル)は、企業価値評価や株価算定において、株主が企業に投資する際に要求する収益率である自己資本コストを算定する代表的な方法です。DCF法で企業価値を評価する際には、WACC(加重平均資本コスト)の構成要素として利用されます。

CAPMでは、自己資本コストを「リスクフリーレート+β×マーケット・リスク・プレミアム」で算定します。リスクフリーレートには一般に国債利回りなどが用いられ、マーケット・リスク・プレミアムは株式市場へ投資することで投資家が追加的に求める収益率を示します。βは、市場全体の値動きに対して対象会社の株式がどの程度変動するかを示す指標です。

上場会社であれば自社株価からβを推計できますが、非上場会社では市場価格が存在しないため、事業内容や収益構造が近い上場会社のβを参考にすることが一般的です。その際、各社の財務レバレッジの影響を除いたアンレバードβを求め、対象会社の想定資本構成を反映して再レバレッジするなどの調整を行います。

実務上は、CAPMの計算式そのものよりも、どの国債利回りを使うか、どの類似会社を選ぶか、どの市場リスクプレミアムを採用するかといった前提設定が重要です。評価結果に大きな影響を与えるため、評価基準日時点の市場環境と対象会社のリスクを踏まえ、第三者に説明できる根拠を整理しておくことが重要です。

関連コラム:DCF法による株価算定における割引率

DCF法による株価算定

DCF法(Discounted Cash Flow法)は、会社が将来生み出すと見込まれるキャッシュ・フローを現在価値に割り引くことで、企業価値や株式価値を算定する方法です。M&A、事業承継、資本政策、非上場株式の評価などで広く利用される代表的な企業価値評価手法の一つです。

DCF法では、まず対象会社の事業計画を基礎として、将来のフリー・キャッシュ・フローを予測します。一般的には、営業利益に税金、減価償却費、設備投資、運転資本の増減などを反映して、事業から生み出されるキャッシュ・フローを算定します。

次に、その将来キャッシュ・フローをWACC(加重平均資本コスト)などの割引率を用いて現在価値に換算します。さらに、事業計画期間終了後の継続的な価値であるターミナルバリューを加えることで事業価値を求め、非事業用資産を加算し、有利子負債等を控除することで株式価値を算定します。

DCF法の大きな特徴は、対象会社固有の将来収益力や成長性を株価算定に反映できる点です。類似上場会社が少ない企業や、今後大きな成長が見込まれる企業、事業構造の転換期にある企業などでは、特に有効な方法となります。

一方で、算定結果が事業計画や割引率、永続成長率などの前提条件に大きく左右される点には注意が必要です。将来売上高や利益率を過度に楽観的に設定した場合、株式価値も実態以上に高く算定される可能性があります。また、WACCがわずかに変化するだけでも評価額が大きく変動することがあります。

そのため実務では、複数の成長率や割引率を用いた感応度分析を行い、一定の幅を持った株式価値として検討することが重要です。また、DCF法だけでなく、マルチプル法や純資産法など他の評価手法と比較し、算定結果の合理性を確認することも有効です。

DCF法での株価算定では、計算式そのもの以上に、事業計画の実現可能性、正常収益力、設備投資や運転資本の見通し、割引率の設定などの前提条件を適切に検討することが重要です。DCF法は精緻な評価が可能な反面、専門的な判断が求められる手法といえます。