四半期報告書の廃止について

令和5年改正金融商品取引法により、2024年4月1日から上場会社の第1・第3四半期の四半期報告書が廃止され、その代わりに第2四半期の半期報告書の提出が義務付けられることになりました。
四半期決算は証券取引所の四半期決算短信に一本化されます。

第1・第3四半期において、決算短信と四半期報告書の両方を作成する実務負担が上場会社ではなくなります。

第1・第3四半期決算短信に含まれる四半期財務諸表等の監査人によるレビューは、原則任意となりました。
以下の場合には、第1・第3四半期決算短信の監査人によるレビューが義務付けられます。
・直近の有価証券報告書、半期報告書、四半期決算短信が無限定適正意見以外の場合
・直近の内部統制監査報告書が無限定適正意見以外の場合
・直近の内部統制監査報告書に開示すべき重要な不備がある場合
・当初の期限内に有価証券報告書、半期報告書が提出されない場合
・直近の半期報告書の訂正を行う場合で、レビュー報告書が添付される場合

税務研究会が2024/8/26に公表した情報によると、上場企業の四半期短信(2,498社)を調査した結果、レビュー報告書を添付した企業は611社(24.5%)であるとのことです。

また、売上高の大きい企業ほど、任意で決算短信にレビュー報告書を添付している割合が高いようです。

参考:東京証券取引所「四半期開示の見直しに関する実務の方針」の公表について

「移管指針の適用」について

 日本の会計基準は、企業会計審議会が公表し、実務上の取扱い等を示す企業会計に関する実務指針については日本公認会計士協会が公表していました。
 2001年に企業会計基準委員会が設立された後は、いずれについても企業会計基準委員会が公表することとしていましたが、日本公認会計士協会が公表した実務指針等については包括的に企業会計基準委員会に引き継ぐことはされていませんでした。
 企業会計基準委員会及び日本公認会計士協会は、日本公認会計士協会が公表した実務指針等を企業会計基準委員会に移管するプロジェクトについての考え方を示し、企業会計基準等に新たに「移管指針」の区分が設けられました。「移管指針」として公表されたものは以下になります。

移管指針「移管指針の適用」
移管指針第1号「ローン・パーティシペーションの会計処理及び表示」
移管指針第2号「外貨建取引等の会計処理に関する実務指針」
移管指針第3号「連結財務諸表におけるリース取引の会計処理に関する実務指針」
移管指針第4号「連結財務諸表における資本連結手続に関する実務指針」
移管指針第5号「株式の間接所有に係る資本連結手続に関する実務指針」
移管指針第6号「連結財務諸表等におけるキャッシュ・フロー計算書の作成に関する実務指針」
移管指針第7号「持分法会計に関する実務指針」
移管指針第8号「研究開発費及びソフトウェアの会計処理に関する実務指針」
移管指針第9号「金融商品会計に関する実務指針」
移管指針第10号「特別目的会社を活用した不動産の流動化に係る譲渡人の会計処理に関する実務指針」
移管指針第11号「研究開発費及びソフトウェアの会計処理に関するQ&A」
移管指針第12号「金融商品会計に関するQ&A」
移管指針第13号「特別目的会社を活用した不動産の流動化に係る譲渡人の会計処理に関する実務指針についてのQ&A」
移管指針第14号「土地再評価差額金の会計処理に関するQ&A」

企業会計基準委員会:移管指針公開草案「移管指針の適用(案)」等の公表

サステナビリティ開示等の課題対応にあたって参考となる開示例集

金融庁の令和5年度の有価証券報告書レビューでは、サステナビリティ、人的資本・多様性及びコーポレート・ガバナンスに関する開示が重点テーマに含まれていました。

法令改正関係審査及び重点テーマ審査の結果として、複数の審査対象会社に以下のような共通した課題が識別されています。
〇サステナビリティに関する考え方及び取組
・サステナビリティ関連のガバナンスに関する記載がない又は不明瞭である。
・サステナビリティ関連のリスク及び機会を識別、評価及び管理するための過程の記載がない又は不明瞭である。
・戦略並びに指標及び目標のうち、重要なものについて記載がない。
・サステナビリティ関連のリスク及び機会の記載がない又は不明瞭なため、サステナビリティに関する戦略並びに指標及び目標に関する記載が不明瞭である。
・人的資本に関する方針、指標、目標及び実績のいずれかの記載がない又は不明瞭である。
〇従業員の状況
・女性管理職比率を女性活躍推進法の管理職の定義に従って算定・開示していない。
〇コーポレート・ガバナンスの状況等
・取締役会、会社が任意に設置する指名・報酬委員会、監査役会等の開催頻度、具体的な検討内容、出席状況等の記載がない。
・内部監査が取締役会に直接報告を行う仕組みの有無に関する記載がない。
・政策保有株式縮減の方針を示しつつ、売却可能時期等について発行者と合意をしていない状態で純投資目的の株式に変更を行っており、又は、発行者から売却の合意を得た上で純投資目的の株式に区分変更したものの、実際には長期間売却に取り組む予定はなく、実質的に政策保有株式を継続保有していることと差異がない状態になっている。

上記の共通課題以外に、サステナビリティ開示等の課題対応にあたって参考となる開示例集として、サステナビリティ開示の好事例集が公表されています。

金融庁:有価証券報告書の作成・提出に際しての留意すべき事項等及び有価証券報告書レビューの実施について(令和6年度)

収益認識に関する会計基準をシンプルに考察

中小企業の会計処理を除き、2021年4月1日以降に開始する事業年度から、「収益認識に関する会計基準」が強制適用されています。
「収益認識に関する会計基準」は、以下のSTEP1~STEP5に沿って収益認識に関する会計処理を行うことを要求しており、その他に細かなルールが存在しています。

STEP1:契約の識別
契約の有無、1つの履行義務が複数契約にまたがる場合の契約の結合等(影響の出るのは建設業等)

STEP2:履行義務の識別
履行義務の識別(何を顧客へ提供するのか、1つの契約で複数のサービス提供義務があるのか等)

STEP3:取引価格の算定
取引価格の算定(間接税、金利要素、リベート等の特殊要因や変動要素がある時の処理等)

STEP4:取引価格の履行義務への配分
取引価格の履行義務へ配分(サービスと価格は一対か、一対でなければ各サービスへ金額を按分するか等)

STEP5:履行義務の充足に基づく収益の認識
履行義務の充足に基づく収益の認識(収益の認識時点。出荷、着荷、期間等)

業種によりますが、代表的なところでは、卸売業、製造業における出荷取引等は影響はなく、建設業における原価回収基準の適用、百貨店における消化取引の純額処理等は影響があると言えます。

企業会計基準委員会 「収益認識に関する会計基準の適用指針」の設例

関連コラム:収益認識に関する会計基準による実務上の変更点

 

セグメント情報の概念、集約方法について

決算短信や有価証券報告書に記載されるセグメント情報の概念、セグメントの集約方法についてご説明します。

セグメント情報等の開示に関する会計基準・適用指針では、以下のセグメント情報等の開示に関する取扱いを定めています。
(1)セグメント情報
(2)セグメント情報の関連情報
(3)固定資産の減損損失に関する報告セグメント別情報
(4)のれんに関する報告セグメント別情報

マネジメント・アプローチ
セグメント情報は、マネジメント・アプローチと呼ばれる経営者が経営上の意思決定及び業績評価のために企業を事業の構成単位に分別した方法を基礎としてセグメント情報の開示を行う方法を採用しています。
つまりは、経営者が意思決定を行うのと同様の視点で、多角化した事業の売上高や営業利益、地域別の売上高や営業利益を投資家へ開示することが会計基準の目的です。経営者の識別している事業セグメントが報告セグメントへ集約されて開示されることとなります。

事業セグメント
事業セグメントは、次の要件のすべてに該当するものです。
(1)収益を稼得し、費用が発生する事業活動に関わるもの
(2)企業の最高経営意思決定機関が、当該構成単位に配分すべき資源に関する意思決定を行い、その業績を評価するために、経営成績を定期的に検討するもの
(3)分離された財務情報を入手できるもの
ただし、新たな事業を立ち上げたときのように、現時点では収益を稼得していない事業活動を事業セグメントとして識別する場合もあります。
企業の本社やコストセンターである特定の部門のような企業を構成する一部であっても収益を稼得していない、又は付随的な収益を稼得するに過ぎない構成単位は、事業セグメント又は事業セグメントの一部となりません。

報告セグメント
事業セグメントは集約基準に沿って集約した後に、量的基準に従い、報告セグメントを決定する必要があります。

集約基準
複数の事業セグメントが次の要件のすべてを満たす場合に、1つの事業セグメントに集約することができます。
(1)当該事業セグメントを集約することが、セグメント情報を開示する基本原則と整合していること
(2)当該事業セグメントの経済的特徴が概ね類似していること
(3)当該事業セグメントの次のすべての要素が概ね類似していること
①製品及びサービスの内容
②製品の製造方法又は製造過程、サービスの提供方法
③製品及びサービスを販売する市場又は顧客の種類
④製品及びサービスの販売方法
⑤銀行、保険、公益事業等のような業種に特有の規制環境

量的基準
次の量的基準のいずれかを満たす事業セグメントを報告セグメントとして開示します。
(1)売上高(事業セグメント間の内部売上高又は振替高を含む。)がすべての事業セグメントの売上高の合計額の10%以上であること
(2)利益又は損失の絶対値が、すべての事業セグメントの利益の合計額又は損失の合計額の絶対値のいずれか大きい額の10%以上であること
(3)資産が、すべての事業セグメントの資産の合計額の10%以上であること
量的基準のいずれにも満たない事業セグメントを、報告セグメントとして開示することもできます。
報告セグメントの外部顧客への売上高の合計額が連結損益計算書又は個別損益計算書の売上高の75%未満である場合には、損益計算書の売上高の75%以上が報告セグメントに含まれるまで、事業セグメントを追加する必要があります。

固定資産の減損に係るグルーピングとの関係
固定資産の減損に係る会計基準の適用指針の第73項に「連結財務諸表における資産グループは、どんなに大きくても、事業の種類別セグメント情報における開示対象セグメントの基礎となる事業区分よりも大きくなることはないと考えられる」とあります。そのため、固定資産の減損の検討における資産グループはセグメントより大きくならないと解釈できます。

【参考】企業会計基準委員会 企業会計基準第17号
セグメント情報等の開示に関する会計基準

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