金融機関の自己査定とは

銀行や信用金庫、信用組合などの金融機関では、貸出金をはじめとする保有資産について、回収可能性や価値を自ら検討する自己査定を行います。自己査定は、信用リスクを適切に把握し、必要な貸倒償却・貸倒引当金を計上するための重要な決算手続です。

貸出金の自己査定では、まず融資先の財務内容、資金繰り、返済状況、事業の将来性、経営改善計画などを確認し、「正常先」「要注意先」「破綻懸念先」「実質破綻先」「破綻先」といった債務者区分を判定します。

そのうえで、貸出金等について担保や保証による回収可能性を考慮し、回収リスクに応じてⅠ分類からⅣ分類までの資産分類を行います。例えば、優良な担保等によって回収が確実と認められる部分はⅠ分類となる一方、回収可能性に重大な懸念がある部分については、より厳しい分類が必要となります。

こうした自己査定結果は、貸倒引当金の算定にも直接影響します。正常先や要注意先については、貸倒実績率や倒産確率などを基礎として一般貸倒引当金を算定し、破綻懸念先以下については、担保・保証による回収見込額や債務者の将来キャッシュ・フローなどを考慮して必要な引当額を検討します。

なお、金融検査マニュアルは2019年に廃止されましたが、自己査定が不要になったわけではありません。現在は、画一的な基準への形式的な当てはめではなく、各金融機関が自らの融資方針や債務者の実態を踏まえ、信用リスクをより適切に評価することが重視されています。

自己査定は貸倒引当金だけでなく、金融機関の健全性や自己資本にも影響する重要な業務です。債務者区分の判定根拠や査定プロセスを明確にし、継続的に検証する体制を整備することが重要です。

【参考】日本公認会計士協会:銀行等監査特別委員会報告第4号 銀行等金融機関の資産の自己査定並びに貸倒償却及び貸倒引当金の監査に関する実務指針

分配可能額とは

会社法上、株式会社は自由に配当を行えるわけではありません。仮に十分な現金預金があったとしても、法令上定められた分配可能額を超えて配当を行うことはできません。この分配可能額の計算は、株主への配当だけでなく、自己株式取得などにも関係する重要な概念であり、経理担当者にとって必須の知識です。

1.分配可能額とは
分配可能額とは、会社が株主へ配当等として分配できる限度額をいいます。
これは、債権者保護を目的として設けられている制度です。
つまり、会社財産を過度に流出させないためのルールといえます。

2.なぜ重要なのか
分配可能額を超えて配当すると、違法配当となります。
その場合、取締役、受領株主に返還責任等が発生する可能性があります。

3.分配可能額の基本構造
会社法上の分配可能額は、概ね以下の要素で構成されます。
その他資本剰余金+その他利益剰余金+当期利益等−自己株式−一定の控除額

資本金や資本準備金は原則配当原資になりません。
実務では、その他利益剰余金(繰越利益剰余金)が中心となります。
ここに、当期純利益、任意積立金取崩などを加味して計算します。

4.分配可能額計算で注意すべき点
(1)自己株式
自己株式は、純資産を減少させる要素であり、分配可能額を減額します。
(2)決算日後の変動
分配可能額は、配当決議日時点で計算する必要があります。
そのため、決算後の自己株取得、剰余金処分も影響します。
(3)連結ではなく単体
分配可能額は、個別財務諸表ベースで判定します。

5.実務上の重要ポイント
(1)剰余金配当との関係
会社法上の配当可能性と、現金余力は別問題です。
(2)金融機関・上場会社
金融機関や上場会社では、配当政策と密接に関連します。
(3)監査上の確認
会計監査では、配当決議時点の分配可能額計算を確認します。

分配可能額は、配当できる上限額、債権者保護目的、個別財務諸表ベースで判定という特徴があります。
配当は、現金があるかではなく、法的に配当可能かで決まります。
企業にとって配当は重要な資本政策ですが、その前提には適切な分配可能額計算があります。会社法・会計・資本政策を総合的に理解し、適法な配当運営を行うことが重要といえるでしょう。

【参考】会社法461条

修正後発事象と開示後発事象

企業の決算は、通常、決算日から一定期間後に財務諸表が公表されます。しかし、その間にも企業を取り巻く状況は変化し続けており、決算日後に重要な事実が発生することがあります。こうした事象を後発事象といい、会計監査や開示実務において極めて重要な論点となります。

1.後発事象とは
後発事象とは、決算日後から財務諸表承認日までの間に発生した事実をいいます。
ただし、すべてを財務諸表に反映するわけではなく、修正後発事象、開示後発事象に区分して判断します。

2.修正後発事象とは
修正後発事象とは、決算日時点で既に存在していた状況に関する追加情報です。
つまり、決算日時点の見積りや状況に変更が生じることを示す事象であり、財務諸表の数値修正が必要となります。
具体例としては、以下が挙げられます。
・売掛金の回収不能確定
・決算日時点で存在していた訴訟の敗訴確定
・棚卸資産の著しい価値下落判明
決算日時点に原因が存在していたかが最大のポイントです。

3.開示後発事象とは
一方、開示後発事象とは、決算日後に新たに発生した重要事象です。
これは、決算日時点には存在していなかったため、財務諸表数値は修正せず、注記開示のみを行います。

具体例としては、以下が挙げられます。
・大規模災害の発生
・重要な組織再編
・多額の資金調達
・株式発行
・株式分割等

4.実務上の重要ポイント
(1)「原因」が決算日前か後か
後発事象の判断で最も重要なのは、原因事実が決算日前に存在したかどうかです。
(2)重要性の判断
軽微な事象であれば、開示不要となる場合もあります。
(3)監査上の対応
公認会計士監査では、財務諸表承認日まで後発事象を確認する必要があります。
そのため、以下の書類を決算の監査時において確認します。
・取締役会議事録
・弁護士確認状
・月次資料

後発事象は、決算日後に発生した重要事象、修正後発事象は数値修正、開示後発事象は注記開示という特徴があります。

後発事象は、いつ発生したかではなく、原因がいつ存在していたかで判断します。
後発事象の判断は、財務諸表の信頼性に直結する重要論点です。形式的な発生日だけでなく、経済実態を踏まえて適切に判断することが、公正な財務報告につながるといえるでしょう。

【参考】監査基準報告書560実務指針第1号:後発事象に関する監査上の取扱い

関連コラム:偶発債務とは

共通支配下の取引とは

企業グループ内で行われる組織再編や資産移転は、外部との取引とは異なる会計処理が求められます。その代表例が共通支配下の取引です。これは、最終的な支配者が変わらないグループ内での取引であり、通常の企業結合とは異なる考え方が適用されます。

1.共通支配下の取引の概要
共通支配下の取引とは、同一の支配者の下にある企業間で行われる取引をいいます。
例えば、親会社が子会社同士を合併させる、グループ内で事業を移転するといったケースが該当します。

2.通常の企業結合との違い
通常の企業結合では、取得原価を基準とした時価評価(パーチェス法)が適用されます。
一方、共通支配下の取引では、帳簿価額(簿価)を引き継ぐという特徴があります。

3.なぜ簿価引継ぎなのか
共通支配下の取引では、グループ全体としての経済実態に変化がないため、時価評価を行わず、従来の帳簿価額を維持する考え方が採用されています。

4.実務上の重要ポイント
(1)支配の継続性
共通支配下かどうかは、最終的な支配者が変わっていないかで判断されます。
(2)のれんの発生有無
通常の企業結合と異なり、原則としてのれんは発生しません。
(3)資本取引との関係
共通支配下の取引は、損益取引ではなく資本取引として扱われる場合が多く、利益計上の有無に注意が必要です。

共通支配下の取引は、グループ内の再編取引、簿価引継ぎが原則、損益ではなく資本取引という特徴があります。

共通支配下は外部取引ではないという視点がすべてです。
グループ再編は企業戦略上重要な手段ですが、その会計処理を誤ると財務数値に大きな影響を与えます。支配の継続性を正しく捉え、適切な会計処理を行うことが、財務情報の信頼性を確保する上で不可欠といえるでしょう。

【参考】ASBJ:企業結合に関する会計基準

関連コラム:企業結合における逆取得

偶発債務とは

企業の決算では、貸借対照表に計上されている債務だけでなく、将来負担が生じる可能性のある偶発債務にも注意する必要があります。偶発債務とは、現時点では現実に発生していないものの、将来一定の条件が成立した場合に企業の負担となる可能性がある債務をいいます。

代表的なものが、子会社や取引先の銀行借入金に対する債務保証です。保証先が正常に返済している間は会社自身に支払義務は生じませんが、保証先が返済できなくなれば代わりに支払う可能性があります。このほか、訴訟を提起されており、敗訴した場合に損害賠償義務が生じるケースや、保証と同様の経済的効果を有する契約なども偶発債務となることがあります。

偶発債務と引当金の違いも重要です。将来の費用または損失について、当期以前の事象に起因し、発生可能性が高く、金額を合理的に見積もることができる場合には、単に偶発債務として注記するのではなく、引当金を計上することが必要です。

一方、引当金の計上要件を満たさない場合でも、将来の負担可能性があり、その金額に重要性がある場合には、偶発債務として財務諸表に内容および金額を注記します。重要性が乏しい場合には、注記を省略することができます。

実務では、決算時に保証契約、訴訟・紛争、損害賠償請求、経営指導念書などを一覧化し、顧問弁護士等への確認も行いながら、引当金計上の要否と偶発債務注記の要否を検討することが重要です。偶発債務は貸借対照表だけでは把握できないため、適切な注記は財務諸表利用者が企業の潜在的なリスクを理解するうえでも重要な情報となります。

【参考】ASBJ:企業会計原則・同注解

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