収益認識に関する会計基準をシンプルに考察

中小企業の会計処理を除き、2021年4月1日以降に開始する事業年度から、「収益認識に関する会計基準」が強制適用されています。
「収益認識に関する会計基準」は、以下のSTEP1~STEP5に沿って収益認識に関する会計処理を行うことを要求しており、その他に細かなルールが存在しています。

STEP1:契約の識別
契約の有無、1つの履行義務が複数契約にまたがる場合の契約の結合等(影響の出るのは建設業等)

STEP2:履行義務の識別
履行義務の識別(何を顧客へ提供するのか、1つの契約で複数のサービス提供義務があるのか等)

STEP3:取引価格の算定
取引価格の算定(間接税、金利要素、リベート等の特殊要因や変動要素がある時の処理等)

STEP4:取引価格の履行義務への配分
取引価格の履行義務へ配分(サービスと価格は一対か、一対でなければ各サービスへ金額を按分するか等)

STEP5:履行義務の充足に基づく収益の認識
履行義務の充足に基づく収益の認識(収益の認識時点。出荷、着荷、期間等)

業種によりますが、代表的なところでは、卸売業、製造業における出荷取引等は影響はなく、建設業における原価回収基準の適用、百貨店における消化取引の純額処理等は影響があると言えます。

企業会計基準委員会 「収益認識に関する会計基準の適用指針」の設例

関連コラム:収益認識に関する会計基準による実務上の変更点

 

セグメント情報の概念、集約方法について

決算短信や有価証券報告書に記載されるセグメント情報の概念、セグメントの集約方法についてご説明します。

セグメント情報等の開示に関する会計基準・適用指針では、以下のセグメント情報等の開示に関する取扱いを定めています。
(1)セグメント情報
(2)セグメント情報の関連情報
(3)固定資産の減損損失に関する報告セグメント別情報
(4)のれんに関する報告セグメント別情報

マネジメント・アプローチ
セグメント情報は、マネジメント・アプローチと呼ばれる経営者が経営上の意思決定及び業績評価のために企業を事業の構成単位に分別した方法を基礎としてセグメント情報の開示を行う方法を採用しています。
つまりは、経営者が意思決定を行うのと同様の視点で、多角化した事業の売上高や営業利益、地域別の売上高や営業利益を投資家へ開示することが会計基準の目的です。経営者の識別している事業セグメントが報告セグメントへ集約されて開示されることとなります。

事業セグメント
事業セグメントは、次の要件のすべてに該当するものです。
(1)収益を稼得し、費用が発生する事業活動に関わるもの
(2)企業の最高経営意思決定機関が、当該構成単位に配分すべき資源に関する意思決定を行い、その業績を評価するために、経営成績を定期的に検討するもの
(3)分離された財務情報を入手できるもの
ただし、新たな事業を立ち上げたときのように、現時点では収益を稼得していない事業活動を事業セグメントとして識別する場合もあります。
企業の本社やコストセンターである特定の部門のような企業を構成する一部であっても収益を稼得していない、又は付随的な収益を稼得するに過ぎない構成単位は、事業セグメント又は事業セグメントの一部となりません。

報告セグメント
事業セグメントは集約基準に沿って集約した後に、量的基準に従い、報告セグメントを決定する必要があります。

集約基準
複数の事業セグメントが次の要件のすべてを満たす場合に、1つの事業セグメントに集約することができます。
(1)当該事業セグメントを集約することが、セグメント情報を開示する基本原則と整合していること
(2)当該事業セグメントの経済的特徴が概ね類似していること
(3)当該事業セグメントの次のすべての要素が概ね類似していること
①製品及びサービスの内容
②製品の製造方法又は製造過程、サービスの提供方法
③製品及びサービスを販売する市場又は顧客の種類
④製品及びサービスの販売方法
⑤銀行、保険、公益事業等のような業種に特有の規制環境

量的基準
次の量的基準のいずれかを満たす事業セグメントを報告セグメントとして開示します。
(1)売上高(事業セグメント間の内部売上高又は振替高を含む。)がすべての事業セグメントの売上高の合計額の10%以上であること
(2)利益又は損失の絶対値が、すべての事業セグメントの利益の合計額又は損失の合計額の絶対値のいずれか大きい額の10%以上であること
(3)資産が、すべての事業セグメントの資産の合計額の10%以上であること
量的基準のいずれにも満たない事業セグメントを、報告セグメントとして開示することもできます。
報告セグメントの外部顧客への売上高の合計額が連結損益計算書又は個別損益計算書の売上高の75%未満である場合には、損益計算書の売上高の75%以上が報告セグメントに含まれるまで、事業セグメントを追加する必要があります。

固定資産の減損に係るグルーピングとの関係
固定資産の減損に係る会計基準の適用指針の第73項に「連結財務諸表における資産グループは、どんなに大きくても、事業の種類別セグメント情報における開示対象セグメントの基礎となる事業区分よりも大きくなることはないと考えられる」とあります。そのため、固定資産の減損の検討における資産グループはセグメントより大きくならないと解釈できます。

【参考】企業会計基準委員会 企業会計基準第17号
セグメント情報等の開示に関する会計基準

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関連当事者の範囲及び取引の開示について

関連当事者の開示に関する会計基準及び関連当事者の開示に関する会計基準の適用指針についてご説明します。

関連当事者との取引は、通常の第三者との取引条件とは異なった条件で行われる可能性が高く、関連当事者の存在が会社の財務状況や業績に重要な影響を与える可能性があるため、関連当事者との取引や関連当事者の存在を適切に情報開示することが本会計基準の趣旨です。

関連当事者の範囲
①親会社
②子会社
③財務諸表作成会社と同一の親会社をもつ会社
④財務諸表作成会社が他の会社の関連会社である場合における当該他の会社
⑤関連会社及び当該関連会社の子会社
⑥財務諸表作成会社の主要株主(自己又は他人名義で議決権の10%以上を保有)及びその近親者
⑦財務諸表作成会社の役員及びその近親者
⑧親会社の役員及びその近親者
⑨重要な子会社の役員及びその近親者
⑩⑥から⑨に掲げる者が議決権の過半数を自己の計算において所有している会社及びその子会社
⑪従業員のための企業年金(企業年金と会社の間で掛金の拠出以外の重要な取引を行う場合に限ります。)
なお、連結財務諸表上は、連結子会社を除き、個別財務諸表上は、重要な子会社の役員及びその近親者並びにこれらの者が議決権の過半数を自己の計算において所有している会社及びその子会社を除きます。

開示対象外の取引
役員に対する報酬、賞与及び退職慰労金の支払いは、開示対象外となります。

関連当事者の概要
関連当事者の概要には、名称又は氏名のほか、以下の内容を記載します。
(1)関連当事者が法人の場合には、所在地、資本金、事業の内容及び当該関連当事者の議決権に対する会社の所有割合又は財務諸表作成会社の議決権に対する当該関連当事者の所有割合
(2)関連当事者が個人の場合には、職業、財務諸表作成会社の議決権に対する当該関連当事者の所有割合

貸倒懸念債権及び破産更生債権等
関連当事者に対する債権が貸倒懸念債権及び破産更生債権等に該当する場合、以下の項目を開示します。
(1)債権の期末残高に対する貸倒引当金残高
(2)当期の貸倒引当金繰入額等
(3)当期の貸倒損失額

資金貸借取引、債務保証等及び担保提供又は受入れ
資金貸借取引、債務保証等及び担保提供又は受入れについて開示する場合には、以下の内容を記載します。
(1)資金貸借取引
資金の貸付取引又は借入取引がある場合、当期中の貸付金額又は借入金額を取引金額として記載し、当該取引の期末残高を記載します。
(2)債務保証等
保証債務等(被保証債務等)の期末残高を取引金額として記載します。
(3)担保提供又は受入れ
担保資産に対応する債務の期末残高を取引金額として記載します。

関連当事者の存在
親会社情報として、親会社の名称及び上場又は非上場の別を開示します。

重要性の判断基準
会社と関連当事者との取引のうち、重要な取引が開示対象となり、重要性の判断基準は以下の様になっています。
(連結)損益計算書項目に属する科目に係る関連当事者との取引
①売上高、売上原価、販売費及び一般管理費
売上高又は売上原価と販売費及び一般管理費の合計額の10%を超える取引
②営業外収益、営業外費用
営業外収益又は営業外費用の合計額の10%を超える損益に係る取引
③特別利益、特別損失
1,000万円を超える損益に係る取引

(連結)貸借対照表項目に属する科目の残高及びその注記事項に係る関連当事者との取引並びに債務保証等及び担保提供又は受入れ
①総資産の1%を超える取引
②資金貸借取引、有形固定資産や有価証券の購入・売却取引等について、取引の発生総額が総資産の1%を超える取引
③事業の譲受又は譲渡について、総資産の1%を超える取引

関連当事者が個人の場合
関連当事者が個人の場合、(連結)損益計算書項目及び(連結)貸借対照表項目等のいずれに係る取引についても、1,000万円を超える取引については、すべて開示対象となります。

【参考】企業会計基準委員会 企業会計基準第11号
関連当事者の開示に関する会計基準

【参考】企業会計基準委員会 企業会計基準適用指針第13号
関連当事者の開示に関する会計基準の適用指針

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排出量取引の会計処理に関する当面の取扱い

排出量取引の会計処理に関する当面の取扱いについてご説明します。

本取扱いは、京都議定書で定められた京都メカニズムにおけるクレジット(排出クレジット)を獲得して排出量削減に充てることを想定した取引や、第三者へ販売するために排出クレジットの獲得を図る取引が見受けられるため、現行の会計基準の枠内で当面必要と考えられる実務上の取扱いを定めたものです。京都メカニズム以外のクレジットも含めた取引も範囲に含まれます。

専ら第三者に販売する目的で排出クレジットを取得する場合の会計処理
(1)他者から購入する場合
専ら第三者に販売する目的で排出クレジットを他者から購入する場合、通常の商品等の購入と同様の会計処理を行います。引渡しを受けた段階で取引を認識し、排出クレジットを取得原価により棚卸資産として処理し、期末における正味売却価額が取得原価よりも下落している場合には、当該正味売却価額をもって貸借対照表価額とします。
(2)出資を通じて取得する場合
排出クレジットに係る出資は、個別財務諸表上、金融商品会計基準に従って会計処理します。排出クレジットが分配された場合は、現物の分配を受けた場合と同様であると考えられるため、以下のように会計処理します。
①当初から排出クレジットでの分配を期待して出資し、排出クレジットの分配が行われた場合には、保有していた出資の帳簿価額のうち実質的に引き換えられたものとみなされる額について、投資元本の帳簿価額から減額し、同額を分配された排出クレジットの取得原価として計上します。
②投資の成果として排出クレジットの分配が行われた場合には、分配された排出クレジットの時価をもって収益として計上します。

将来の自社使用を見込んで排出クレジットを取得する場合の会計処理
(1)他者から購入する場合
将来の自社使用を見込んで排出クレジットを他者から購入する場合、無形固定資産または投資その他の資産の購入として会計処理を行います。
排出クレジットは、減価償却は行わず、固定資産の減損に係る会計基準の対象となります。第三者への売却可能性に基づく財産的価値を有していることから独立したグルーピングとなります。
資産として計上された排出クレジットは、自社の排出量削減に充てられたときに、これを費用として計上します。
(2)出資を通じて取得する場合
専ら第三者に販売する目的で取得する場合と同様に、出資を個別財務諸表上、金融商品会計基準に従って会計処理し、出資先が子会社または関連会社に該当する場合には、連結財務諸表上は子会社及び持分法適用会社として会計処理します。
(3)無償で取得する場合
試行排出量取引スキームにおいて、政府から排出枠を無償で取得する場合は、以下のように会計処理します。
①事後清算により排出枠を取得する場合
各目標設定年度の排出量削減目標を超過達成すると、超過達成分に相当する排出枠を取得しますが、次年度以降に目標未達となった場合に、当該排出枠を不足分の充当に使用する可能性があること、また、当該スキームで定められた平成24年度までの目標設定年度以降における排出枠の取扱いが定まっていないため、将来、当該排出枠を売却できるとは限らないことから当該排出枠の取得時には会計上、取引を認識しません。
②事前交付により排出枠を取得する場合
排出枠は、過去の実績等に基づいて設定された排出総量目標に応じて事前交付され、その一部を売買することができますが、当該排出枠の事前交付時には事後清算により排出枠を取得する場合と同様に、会計上、取引を認識しません。

【参考】企業会計基準委員会 実務対応報告第15号
排出量取引の会計処理に関する当面の取扱い

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収益認識に関する会計基準による実務上の変更点

収益認識に関する会計基準による実務上の変更点及び影響について、設例を用いてご説明します。

前回のコラムでご説明しました収益認識に関する会計基準では、基本となる原則に従って収益を認識するために、次の5つのステップを適用します。
ステップ1:顧客との契約を識別する
ステップ2:契約における履行義務を識別する
ステップ3:取引価格を算定する
ステップ4:契約における履行義務に取引価格を配分する
ステップ5:履行義務の充足により収益を認識する

設例1:商品の販売と保守サービスの提供
収益認識に関する会計基準では、履行義務の単位で収益を認識します。商品の販売と保守サービスを提供する契約では、商品の販売と保守サービスに取引価格を配分する必要があります。また、商品を販売した後に数年に渡り保守サービスを提供した場合には、保守サービスの取引価格を義務の履行に応じて期間配分することとなります。

収益の期間帰属に影響を与えます。また、収益の期間帰属の相違により、債権管理や業績管理へ影響を与えることとなります。

設例2:変動対価
顧客と約束した対価のうち変動する可能性のある部分を「変動対価」と定義しています。契約において、顧客と約束した対価に変動対価が含まれる場合、財又はサービスの顧客への移転と交換において、企業が権利を得ることとなる対価の額を最頻値又は期待値により見積ります。
顧客から受け取る対価の一部あるいは全部を顧客に返金すると見込む場合、企業が権利を得ると見込まない額について、返金負債を認識し、各決算日に見直します。
変動対価の額に関する不確実性が事後的に解消される際に、解消される時点までに計上された収益の著しい減額が発生しない可能性が高い部分に限り、取引価格に含めます。

取引の実態を正確に計上するために、見積の要素が組み込まれています。そのため、取引からのトータルの収益に変動がない場合でも、不確実性がなくなったタイミングでの収益認識となるため、収益の期間帰属に影響が出ます。

設例3:小売業における消化仕入
企業が取引の本人の場合と代理人の場合において履行義務が異なることを考慮し、収益表示の取り扱いが異なります。企業が取引の本人の場合は収益の総額表示、代理人の場合は収益の純額表示となります。

消化仕入契約は、小売業者が、店舗への商品納品時には検収を行わず、店舗にある商品の法的所有権は仕入先が保有しているままです。また、商品に関する保管管理責任及び商品に関するリスクも仕入先が有し、個々の消化仕入商品の品揃えや販売価格の決定権は仕入先にあります。
顧客への商品販売時に、商品の法的所有権が仕入先から小売業者に移転するのと同時に顧客に移転します。小売業者は、商品の販売代金を顧客から受け取って販売代金のうち決められた料率を乗じた金額について、仕入先に対する支払義務を負います。
消化仕入契約では、商品の法的所有権はなく、在庫リスクを一切負っていないことから、代理人に該当すると判断します。
そのため、従来は小売業者が、総額で顧客への商品の販売代金を売上高として認識していた実務から、利益に該当する金額を純額で手数料収入として認識することとなります。

設例4:カスタマー・ロイヤルティ・プログラム
小売業で販売時に顧客にポイントを付与し、顧客が次回以降の購入時にポイントを使用して値引を受けることができる場合が本事例です。
取引価格を商品の販売価格(売上高)とポイント(契約負債)に独立販売価格の比率で按分する必要があり、販売時の収益の認識金額が従来の実務から変動します。ポイントの使用時に契約負債が取り崩され、売上高に計上されます。
ポイント引当金を行っていた従来の実務から大きな変動が生じるため、小売業では、システム改修の必要性等の影響が考えられます。

収益認識に関する会計基準の適用で、影響が大きいものをピックアップして記載しました。

【参考】企業会計基準委員会 企業会計基準第29号
収益認識に関する会計基準

関連コラム:収益認識に関する会計基準をシンプルに考察