東京プロマーケットの発行者情報

TOKYO PRO Market(TPM)では、原則として有価証券報告書に代わり発行者情報を公表します。プライム・スタンダードなどの一般市場と同じく、投資家に企業の実態を伝える書類ですが、開示の範囲や方法には違いがあります。

記載内容と公表方法の違い

発行者情報には、事業内容、業績、事業等のリスク、株主・役員の状況、財務諸表などを記載します。ただし、有価証券報告書と同一の様式ではありません。例えば、連結財務諸表を作成する会社では、原則として個別財務諸表の併記は求められません。記載項目や省略の可否は、東証の様式・記載上の注意に沿って確認します。

公表方法も、EDINETを通じた有価証券報告書の開示とは異なり、発行者情報は東証等のウェブサイトに掲載します。

年度・中間の年2回が基本

TPMの発行者情報は、年度末と中間期末からそれぞれ3か月以内に公表することが基本です。一方、一般市場で求められる四半期決算短信はTPMでは任意であり、決算開示の頻度に違いがあります。内部統制報告書も原則任意ですが、内部管理体制の整備が不要になるわけではありません。

開示負担の軽減と、情報の信頼性は別問題

発行者情報に含まれる年度財務諸表には監査が必要です。中間財務諸表についても、適用する枠組みに応じて中間監査又は期中レビューが求められます。「開示が簡素だから、決算の精度も低くてよい」という理解は適切ではありません。

公認会計士の立場からは、上場準備の段階で、決算数値と事業説明の整合性を確認し、必要な情報を各部門から集約できる仕組みを整えることをお勧めします。J-Adviserと監査人の役割を踏まえて連携し、将来の一般市場上場も視野に入れながら、継続して正確な情報を発信できる体制を築くことが重要です。

【参考】日本取引所グループ:2025 上場ガイドブック TOKYO PRO Market編

サステナビリティ情報の開示

企業開示では、財務情報だけでなく、気候変動や人的資本など、中長期的な企業価値に影響する「サステナビリティ情報」の重要性が高まっています。日本では、サステナビリティ基準委員会(SSBJ)が2025年3月に、我が国初のサステナビリティ開示基準として「サステナビリティ開示基準の適用」「一般開示基準」「気候関連開示基準」を公表しました。これらは国際的なISSB基準との整合性を図って策定されています。

SSBJ基準では、企業価値に影響を与える重要なサステナビリティ関連のリスクと機会について、主に「ガバナンス」「戦略」「リスク管理」「指標及び目標」の4つの観点から開示します。気候関連情報では、温室効果ガス排出量についてScope1、Scope2に加え、一定のScope3情報も重要な開示項目となります。

制度上は、まず東京証券取引所プライム市場のうち平均時価総額が一定規模以上の会社から段階的にSSBJ基準への準拠が義務化されます。平均時価総額3兆円以上の会社は2027年3月期から、1兆円以上の会社については2028年3月期から適用され、、2029年3月期から時価総額5,000億円~1兆円未満の企業がサステナビリティ情報の開示の義務化がなされる案が示されています。

実務上は、開示文章を作るだけでは十分ではありません。GHG排出量などのデータ収集、子会社やバリューチェーンからの情報取得、重要性の判断、取締役会による監督、財務情報との整合性確認など、継続的な開示体制を整備する必要があります。サステナビリティ開示は、今後「広報資料」ではなく、有価証券報告書を構成する重要な企業情報として、財務報告と同等に管理体制を構築していくことが重要です。

金融庁:サステナビリティ情報の開示に関する特集ページ

関連コラム:サステナビリティ開示等の課題対応にあたって参考となる開示例集

公認会計士監査の対象となる医療法人

医療法では、一定規模以上の医療法人について、財務情報の信頼性を確保するため、公認会計士または監査法人による外部監査を義務付けています。

一般の医療法人については、直前の会計年度における「負債総額が50億円以上」または「事業収益が70億円以上」のいずれかに該当すると、法定監査の対象となります。

一方、公益性の高い社会医療法人では基準が低く設定されており、「負債総額が20億円以上」または「事業収益が10億円以上」のいずれかに該当する場合に監査が必要です。また、社会医療法人債を発行している社会医療法人については、規模にかかわらず公認会計士等による監査の対象となります。

例えば、事業収益が75億円で負債総額が30億円の一般医療法人は、負債額が50億円未満であっても、事業収益70億円以上という基準に該当するため監査対象となります。判定は、原則として直前の会計年度の貸借対照表・損益計算書を基礎として行います。

法定監査の対象となる医療法人は、医療法人会計基準に基づいて財務諸表等を作成し、財産目録、貸借対照表および損益計算書について公認会計士または監査法人の監査を受けます。

規模基準に近づいている医療法人では、実際に監査対象となってから準備を始めるのではなく、会計方針や経理規程、固定資産管理、引当金、決算体制などを事前に整備しておくことが重要です。将来の規模拡大を見据え、早い段階から監査に耐えられる会計体制を構築しておくことが、円滑な法定監査につながります。

【参考】厚生労働省医政局医療経営支援課:医療法人会計基準について(Q&A)

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医療法人の「持分あり」と「持分なし」の違い

医療法人には、大きく分けて「持分あり医療法人」と「持分なし医療法人」があります。ここでいう「持分」とは、株式会社の株式のような議決権ではなく、出資者が医療法人の財産に対して有する財産的な権利を意味します。

持分あり医療法人では、定款の定めに基づき、社員が退社した際に出資持分に応じた払戻しを請求できる場合があります。また、持分は財産的価値を有するため、出資者が死亡すると相続税の課税対象となります。医療法人の純資産が長年の利益蓄積によって大きくなっている場合、当初の出資額が少額であっても、持分の評価額が高額になることがあります。

さらに、退社する出資者から多額の払戻請求を受けると、医療法人の資金繰りや病院・診療所の経営に影響する可能性があります。

これに対し、持分なし医療法人では、出資者が法人財産に対する持分を有しません。そのため、社員が退社しても持分に応じた財産の払戻しはなく、持分そのものを相続するという問題も生じません。なお、基金拠出型医療法人も持分なし医療法人の一類型です。

2007年4月1日の医療法改正以降、新たに設立する社団医療法人は原則として持分なし医療法人に限られ、従来から存在する持分あり医療法人は「経過措置医療法人」として存続しています。

持分あり医療法人では、事業承継や相続を考える際、持分評価額、相続税、将来の払戻請求などを早い段階から確認することが重要です。持分なし医療法人への移行を検討する場合も、持分放棄に伴う課税関係を含め、税務・法務の両面から慎重に検討する必要があります。

【参考】厚生労働省:「持分なし医療法人」への移行に関する手引書

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上場準備初年度の期首残高固め

IPOを目指して監査法人による監査を開始する場合、初年度の重要な作業の一つが期首残高固めです。初年度監査では当期の取引だけでなく、期首時点の貸借対照表に重要な誤りがなく、その残高が当期の財務諸表へ適切に引き継がれているかを確認する必要があります。

監査基準報告書510では、監査人は、期首残高に当期の財務諸表へ重要な影響を与える虚偽表示が含まれていないか、また、適切な会計方針が継続して適用されているかについて十分かつ適切な監査証拠を入手することが求められています。

上場準備会社では、それまで税務申告を中心とした決算を行っていたため、会計基準との差異が初年度に発見されることも少なくありません。例えば、売掛金の回収可能性、棚卸資産の数量・評価、固定資産の実在性や減損、引当金、税効果会計、関連当事者取引などについて、期首残高まで遡って整理する必要があります。

また、棚卸資産のように期首時点へ後から遡って実在性を確認することが難しい項目もあります。そのため、監査契約の締結が遅れるほど、十分な監査証拠を確保することが難しくなる可能性があります。期首残高について十分かつ適切な監査証拠を入手できなければ、監査意見にも影響する場合があります。

上場準備初年度では、監査法人を早期に選定し、期首残高や過年度の会計処理について早い段階から課題を洗い出すことが重要です。期首残高を適切に固めることは、その後の上場準備監査を円滑に進めるための土台となります。

【参考】日本公認会計士協会:監査基準報告書510 初年度監査の期首残高