収益認識に関する会計基準による実務上の変更点及び影響について、設例を用いてご説明します。

前回のコラムでご説明しました収益認識に関する会計基準では、基本となる原則に従って収益を認識するために、次の5つのステップを適用します。
ステップ1:顧客との契約を識別する
ステップ2:契約における履行義務を識別する
ステップ3:取引価格を算定する
ステップ4:契約における履行義務に取引価格を配分する
ステップ5:履行義務の充足により収益を認識する

設例1:商品の販売と保守サービスの提供
収益認識に関する会計基準では、履行義務の単位で収益を認識します。商品の販売と保守サービスを提供する契約では、商品の販売と保守サービスに取引価格を配分する必要があります。また、商品を販売した後に数年に渡り保守サービスを提供した場合には、保守サービスの取引価格を義務の履行に応じて期間配分することとなります。

収益の期間帰属に影響を与えます。また、収益の期間帰属の相違により、債権管理や業績管理へ影響を与えることとなります。

設例2:変動対価
顧客と約束した対価のうち変動する可能性のある部分を「変動対価」と定義しています。契約において、顧客と約束した対価に変動対価が含まれる場合、財又はサービスの顧客への移転と交換において、企業が権利を得ることとなる対価の額を最頻値又は期待値により見積ります。
顧客から受け取る対価の一部あるいは全部を顧客に返金すると見込む場合、企業が権利を得ると見込まない額について、返金負債を認識し、各決算日に見直します。
変動対価の額に関する不確実性が事後的に解消される際に、解消される時点までに計上された収益の著しい減額が発生しない可能性が高い部分に限り、取引価格に含めます。

取引の実態を正確に計上するために、見積の要素が組み込まれています。そのため、取引からのトータルの収益に変動がない場合でも、不確実性がなくなったタイミングでの収益認識となるため、収益の期間帰属に影響が出ます。

設例3:小売業における消化仕入
企業が取引の本人の場合と代理人の場合において履行義務が異なることを考慮し、収益表示の取り扱いが異なります。企業が取引の本人の場合は収益の総額表示、代理人の場合は収益の純額表示となります。

消化仕入契約は、小売業者が、店舗への商品納品時には検収を行わず、店舗にある商品の法的所有権は仕入先が保有しているままです。また、商品に関する保管管理責任及び商品に関するリスクも仕入先が有し、個々の消化仕入商品の品揃えや販売価格の決定権は仕入先にあります。
顧客への商品販売時に、商品の法的所有権が仕入先から小売業者に移転するのと同時に顧客に移転します。小売業者は、商品の販売代金を顧客から受け取って販売代金のうち決められた料率を乗じた金額について、仕入先に対する支払義務を負います。
消化仕入契約では、商品の法的所有権はなく、在庫リスクを一切負っていないことから、代理人に該当すると判断します。
そのため、従来は小売業者が、総額で顧客への商品の販売代金を売上高として認識していた実務から、利益に該当する金額を純額で手数料収入として認識することとなります。

設例4:カスタマー・ロイヤルティ・プログラム
小売業で販売時に顧客にポイントを付与し、顧客が次回以降の購入時にポイントを使用して値引を受けることができる場合が本事例です。
取引価格を商品の販売価格(売上高)とポイント(契約負債)に独立販売価格の比率で按分する必要があり、販売時の収益の認識金額が従来の実務から変動します。ポイントの使用時に契約負債が取り崩され、売上高に計上されます。
ポイント引当金を行っていた従来の実務から大きな変動が生じるため、小売業では、システム改修の必要性等の影響が考えられます。

収益認識に関する会計基準の適用で、影響が大きいものをピックアップして記載しました。

【参考】企業会計基準委員会 企業会計基準第29号
収益認識に関する会計基準

関連コラム:収益認識に関する会計基準をシンプルに考察