繰越欠損金及び欠損金の繰戻しによる還付

繰越欠損金及び欠損金の繰戻しによる還付の制度概要についてご説明します。

繰越欠損金について
繰越欠損金は、確定申告書を提出している会社において、過去の事業年度で生じた欠損金を、所得の生じた事業年度の所得金額の計算上、損金の額に算入できるものです。青色申告書を欠損金が生じた年度において提出している必要があり、その後も確定申告書(青色申告書または白色申告書)を連続して提出している必要があります。

大法人における繰越欠損金の控除限度額は、繰越欠損金を控除する前の所得の金額に以下の割合を乗じた金額となっています。
(1)平成29年4月1日から平成30年3月31日開始事業年度…55%
(2)平成30年4月1日から開始事業年度…50%

中小法人については、改正前と同様に繰越欠損金の控除制限はありません。所得金額の100%の控除が可能です。

繰越欠損金の損金算入の順序ですが、繰越欠損金が過去の事業年度のうち2以上の事業年度において生じている場合には、最も古い事業年度において生じた繰越欠損金から順次損金に算入をします。

欠損金の繰戻しによる還付について
欠損事業年度(青色申告書の確定申告書を提出する事業年度に欠損金額が生じた場合の年度を指す)に、その欠損金額をその事業年度開始の日前1年以内に開始した事業年度に繰り戻して法人税額の還付を請求できるというものです。

解散等の事実が生じた場合の欠損金額及び中小企業者等の各事業年度で生じた欠損金額を除いて、2020年3月31日まで適用が停止されています。
そのため、本制度の利用は資本金の額が1億円以下である法人に限られており、大法人では利用ができません。

還付金額については、以下の算式で計算します。
還付金額=還付所得事業年度の法人税額×欠損事業年度の欠損金額÷還付所得事業年度の所得金額

法人が還付金額の計算の基礎として還付請求書に記載した金額及び分母の金額が還付の限度額になります。
また、地方法人税を納付していた場合に、上記より算出された還付金額に4.4%を乗じて算出した地方法人税も還付されます。
都道府県民税、市町村民税、事業税等の地方税について適用はありません。

【参考】国税庁:青色申告書を提出した事業年度の欠損金の繰越控除

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中小企業倒産防止共済制度を利用した節税

中小企業倒産防止共済制度の概要と当該制度を利用した節税をご説明します。中小企業倒産防止共済制度は損金算入でき、役員の退職金の支給時に取り崩す等で、中小企業で多額に利益が出ている場合の節税商品、簿外の貯蓄効果のある商品として一般的に使われています。

中小企業倒産防止共済制度は独立行政法人中小企業基盤整備機構(中小機構)が運営している共済制度で、経営セーフティ共済とも呼ばれます。

中小企業倒産防止共済制度の概要について
取引先企業が倒産した場合に、中小企業の連鎖倒産や経営難になるのを防ぐため、無担保・無保証人で掛金総額の10倍の範囲内(最高8,000万円)で回収困難な売掛債権等の額以内の共済金の貸付けが受けられる制度です。

加入要件
加入要件は、業種に応じて「資本金の額または出資の総額」及び「常時使用する従業員数」が異なります。
以下にいくつか例示します。
製造業、建設業、運輸業その他の業種:資本金の額は3億円以下、従業員数は300人以下
卸売業:資本金の額は1億円以下、従業員数は100人以下
サービス業:資本金の額は5,000万円以下、従業員数は100人以下
小売業:資本金の額は5,000万円以下、従業員数は50人以下

中小企業倒産防止共済制度のメリットについて
月々の掛金は5,000円~20万円まで自由に選べ、加入後も増額・減額できます。確定申告の際、掛金を法人では損金、個人事業主では必要経費に算入でき、節税効果を得ることができます。
年間240万円まで全額損金計上でき、合計積み立て限度額800万円までの枠を節税として利用し、それでも節税しきれない場合に法人保険を利用する節税がおすすめです。

中小企業倒産防止共済を解約した場合に、解約手当金を受け取れます。
自己都合では、掛金を12か月以上納めていれば掛金総額の8割以上が解約手当金として受け取れます。また、40か月以上納めていれば、掛け金全額を解約手当金として受け取れます。12か月未満は掛け捨てとなるため、40か月以上の納付を行うべきです。
解約手当金は、受領時に益金算入されてしまいます。そのため、節税の観点では多額の費用が発生する場合に、解約手当金を受領し、収益と費用を相殺することに使用すると良いです。
多額の修繕費や役員退職金を支給する際、期限切れの繰越欠損金を利用する場合等が該当します。

【参考】独立行政法人中小企業基盤整備機構:経営セーフティ共済

関連コラム:小規模企業共済制度の概要とメリット

デット・エクイティ・スワップの会計と税務

金融商品に関する会計基準並びに実務対応報告第6号デット・エクイティ・スワップの実行時における債権者側の会計処理に関する実務上の取扱い及びデット・エクイティ・スワップの税務についてご説明します。

デット・エクイティ・スワップとは
デット・エクイティ・スワップ(Debt Equity Swap)とは、DESと呼ばれ、再建計画等の一環の中で、債権者の債権を債務者に現物出資することで、債務と株式を交換し、債務を株式化することをいいます。DESにより、経営不振の債務者は債務超過を解消でき、金融機関や企業再生ファンド等の債権者は債務と交換で株式を受け取り、経営に影響力を持つ株主となることができます。

デット・エクイティ・スワップの会計処理
民法520条で「債権者がその債権を債務者に現物出資した場合、債権と債務が同一の債務者に帰属し当該債権は混同により消滅する」とされており、支配が他に移転したかどうかを検討するまでもなく金融資産の消滅の認識要件を満たすものと考えられます。
債権者は債権の消滅を認識するとともに、消滅した債権の帳簿価額とその対価としての受取額との差額を、当期の損益として処理します。
債権者が取得する株式は、債権とは異なる新たな資産と考えられ、債権者が取得する株式の時価が対価としての受取額(譲渡金額)となります。消滅した債権の帳簿価額と取得した株式の時価の差額は当期の損益として処理され、株式は時価で計上されます。
なお、株式の時価は、市場価格がある場合には市場価格を用い、市場価格がない場合には合理的に算定された価額を用います。合理的に算定された価額は、債権放棄額や増資額等の支援額の十分性、債務者の再建計画等の実行可能性、株式の条件等を考慮し、算定します。
債権切捨てと実質的に同様と考えられる債権放棄の代わりに債権者がデット・エクイティ・スワップに応じる場合には、取得する株式の時価はゼロに近くなると考えられます。

デット・エクイティ・スワップの税務
完全支配関係がある法人間のデット・エクイティ・スワップで適格要件を満たすものは適格現物出資、それ以外は非適格現物出資になるものと考えられ、非適格現物出資の際に債務者の債務消滅益への課税が問題となります。

適格現物出資の場合
完全支配関係のある法人間の適格現物出資では、債権の簿価がそのまま引き継がれるので、債務消滅益は発生しません。
非適格現物出資の場合
非適格現物出資に該当するデット・エクイティ・スワップの場合、債務者側において新株発行において増加する資本金等の額は、債権の時価となります。債権の時価相当額について資本金等の額を増加させ、債権の時価相当額と株式額面金額との差額は債務免除益として税務上認識されます。金融機関などの第三者によってデット・エクイティ・スワップが実施される場合は非適格現物出資となり、債務消滅益が発生します。

事業再生として行われるので、合理的な再建計画によるデット・エクイティ・スワップにおいては、債権の額面と株式の時価との差額が、債権者において損金として取り扱われます。ただし、デット・エクイティ・スワップを含む再建計画が経済合理性のない過剰支援と認められる場合には、債権者から債務者に対する寄付金と認定される場合もあります。

会社更生法及び民事再生法に基づく再生手続、特別清算、破産手続が開始した場合等の再生手続中の債務者であれば、期限切れ欠損金を繰越欠損金に優先して損金算入して債務消滅益から控除することができます。

【参考】企業会計基準委員会 実務対応報告第6号
デット・エクイティ・スワップの実行時における債権者側の会計処理に関する実務上の取扱い

関連コラム:金融商品の発生及び消滅の認識について

同族会社の判定要件と留意点

同族会社の定義
同族会社とは、会社の株主等の3人以下並びにこれらと特殊な関係にある個人や法人が発行済株式総数の50%超、または議決権の50%超、またはその会社の社員の総数の半数超を保有している会社をいいます。
なお、特殊な関係にある個人や法人とは、以下のとおりです。
1.株主等の親族(配偶者、六親等以内の血族、三親等以内の姻族)
2.株主等と事実上の婚姻関係にある者
3.株主等の使用人
4.株主等から受ける金銭やその他の資産により生計を立てている者
5.株主等並びに株主等と特殊関係のある個人及び法人で他の会社を発行済株式又は出資の50%超を所有している場合の当該他の会社。

同族会社に特有な税制
同族会社は少数の特定株主により意思決定でき、会社の行為や計算を操作して、法人税や所得税の負担を軽減することが可能なため、特別な規定が設けられています。
①みなし役員や使用人兼務役員の判定
形式的に役員の名称を持っている者だけでなく、みなし役員として実質的に法人の経営に従事している者も役員の範囲に含める規定があります。法人税法上、役員に支給した過大な給与は損金にできず、形式的に役員から除外することを防止するために、形式ではなく実質で役員判定を行うものです。

②留保金課税
個人株主に対する所得税は超過累進税率によって課税されます。個人株主の所得税負担を軽減するため、配当を少なくし、会社内部に利益を留保することができます。上位1株主グループで持株割合が50%超となる特定同族会社では法人の留保金に課税する規定があります。ただし、資本金等の額が1億円以下の特定同族会社については留保金課税の適用はありません。
なお、留保金課税は以下の方法で算出されます。
留保金額-留保控除額×税率=留保金課税

留保金額=会社の課税所得+課税外収入項目-社外流出の金額-法人税
留保控除額は、次の基準額のうち最も多い金額を使用します。
(1)所得基準額:所得等の金額の40%相当
(2)定額基準額:2,000万円×当期の月数/12
(3)利益積立金基準額:期末資本金の25%相当-(期首利益積立金額-前期末配当額)
税率は3,000万円以下は10%、3,000万円~1億円以下は15%、1億円を超える金額は20%となっています。

③適正な取引が行われたものとして課税所得や法人税額などを計算
税務署長は、所得を移転するような異常な取引(低価格で関係会社へ販売する等)を適正な取引が行われたものとして法人税等の課税所得や法人税額などを計算することができるという規定があります。

【参考】国税庁:同族会社

関連コラム:法人税法の役員報酬に関する規制

使途秘匿金の税務上の取り扱い

法人が交際費、機密費、接待費等の名義をもって支出した金銭で、その使途が明らかでないものは使途秘匿金と呼ばれます。
使途秘匿金と認められる支出をした場合には、損金として認められないだけでなく、その支出をした事業年度の通常の法人税額に、その使途秘匿金の支出額の40%が加算されます。

使途秘匿金とみなされる支出の条件は、相当の理由がなく以下の3つを帳簿に記載していないものです。
1.支出先の氏名又は名称がわからない
2.住所又は所在地がわからない
3.支出した理由がわからない

通常の会社経営でお金の使途が不明というものはありえません。相手方を意図的に隠す支出は、不正な裏金になりやすいので、制裁課税で防止するのが本制度の趣旨です。

役員報酬等に上乗せし、個人のポケットマネーから払うことで、使途秘匿金課税の対策をするしかないと思われます。
役員報酬は法人税上損金として認められないことになりますが、個人が行うことですから、法人税の税務調査と直接関係はないことになります。

極力このような支出を避けて、健全な事業運営を行うことが望まれます。

【参考】国税庁:法人税の重加算税の取扱いについて(事務運営指針)

関連コラム:交際費の税務上の論点