相続した不動産を売却した場合

相続した不動産を売却した場合、その利益には譲渡所得税が課税されます。相続だからといって所得税は対象外になるわけではなく、通常の不動産売却と同様に税金が発生する点に注意が必要です。

まず、譲渡所得の計算は「売却価格-取得費-譲渡費用」で行います。ここで重要なのが取得費の考え方です。相続の場合、被相続人がその不動産を取得した際の取得費を引き継ぐ「取得費の引継ぎ」が原則となります。購入当時の契約書などが残っていれば、その金額を基に計算しますが、資料がない場合には「売却価格の5%」を概算取得費として用いることも可能です。

次に税率ですが、所有期間の判定は「被相続人の取得時からの通算」となります。したがって、被相続人が長期間保有していた不動産であれば、相続後すぐに売却しても長期譲渡所得(約20%)が適用されるケースが一般的です。

また、相続した不動産には特例の適用も重要です。代表的なものとして「取得費加算の特例」があり、相続税を支払っている場合には、その一部を取得費に加算することで譲渡所得を圧縮できます。さらに、一定の要件を満たせば「空き家特例(3,000万円控除)」を利用できる可能性もあります。

一方で、居住用財産の3,000万円控除は、原則として「自分が住んでいた不動産」に適用されるため、相続しただけでは利用できない点には注意が必要です。

実務上は、取得費の資料の有無や特例の適用可否によって税額が大きく変わるため、事前の確認が非常に重要です。不動産売却は金額が大きく、税負担も無視できません。相続した不動産を売却する際は、早い段階で税理士に相談し、最適な方法を検討することが、税負担の軽減につながります。

【参考】国税庁:相続や贈与によって取得した土地・建物の取得費と取得の時期

関連コラム:不動産譲渡損失が出た場合の特例

関連コラム:相続した空き家の3,000万円特別控除

山林所得とは

山林を所有している方が、立木を伐採して売却したり、立木のまま譲渡したりした場合、その利益は原則として山林所得として所得税の対象となります。

ただし、山林所得となるのは、原則として取得してから5年を超えて所有している山林です。取得後5年以内に伐採・譲渡した場合には、事業として行っていれば事業所得、それ以外は雑所得となります。また、山林を土地と一緒に売却した場合でも、立木部分は山林所得、土地部分は譲渡所得として別々に計算する必要があります。

山林所得の金額は、「総収入金額-必要経費-特別控除額」で計算します。特別控除額は最高50万円です。必要経費には、山林の取得費のほか、植林費、下刈費などの育成費、管理費、伐採費、運搬費、仲介手数料などが含まれます。

長期間所有している山林では、取得費や育成費の資料が残っていないことも少なくありません。このため、伐採・譲渡した年の15年前の12月31日以前から引き続き所有している一定の山林については、収入金額から伐採費等を差し引いた金額の50%相当額などを必要経費とする概算経費控除を利用できる場合があります。

さらに、山林所得は他の所得と分けて税額を計算し、「5分5乗方式」という独特の方法が採用されています。課税山林所得を5分の1にして税率を適用し、その税額を5倍することで、長期間にわたって育成した山林の利益が一度に発生することによる税負担を緩和しています。

山林を売却する際には、所有期間、土地と立木の売却価格、取得・管理費用などを整理し、売却前から税額を試算しておくことが重要です。

【参考】国税庁:山林所得

関連コラム:農業所得とは

成年後見制度と家族信託の違い

認知症などによって判断能力が低下した場合に備える方法として、「成年後見制度」と「家族信託」があります。似た制度と思われがちですが、その目的やできることには大きな違いがあります。

成年後見制度は、判断能力が不十分な本人を法律面・生活面から支援する制度です。法定後見では、判断能力が低下した後に家庭裁判所が成年後見人等を選任し、預貯金の管理、不動産に関する手続、介護施設への入居契約などを本人に代わって行います。任意後見では、判断能力が十分なうちに、将来支援してもらう人や委任する内容をあらかじめ決めておくことができます。

これに対し、一般に家族信託と呼ばれる民事信託は、自宅や賃貸不動産、預貯金などの財産を、信頼できる家族等に託して管理・処分してもらう仕組みです。本人の判断能力が低下した後も、信託契約の内容に従って受託者が財産を管理できる点に特徴があります。

また、家族信託では、「本人の死亡後は配偶者、その後は子へ」といった財産承継の設計も可能であり、財産管理について比較的柔軟な設計ができます。一方、身上保護や介護契約など、本人自身に関する幅広い法律行為については、成年後見制度の役割が重要となります。

税務面では、家族信託を利用しただけで相続税や贈与税が節税できるわけではありません。受益者を誰にするか、受益権をいつ移転するかによって贈与税・相続税の課税関係が変わるため注意が必要です。

そのため、成年後見制度と家族信託は二者択一ではなく、財産構成や家族関係によって併用することも考えられます。認知症対策と相続対策を検討する際には、税理士、司法書士、弁護士等と連携し、将来の財産管理と承継を一体として設計することが重要です。

【参考】一般社団法人 家族信託普及協会:家族信託とは?

関連コラム:成年後見人になった場合の確定申告

成年後見人になった場合の確定申告

成年後見人に選任された場合、財産管理の一環として確認しておきたいのが、成年被後見人本人の確定申告です。成年後見人になったからといって必ず確定申告が必要になるわけではなく、本人の所得状況によって申告の要否を判断します。

例えば、本人に公的年金のほか、不動産所得、事業所得、株式の譲渡所得などがある場合には、確定申告が必要となることがあります。成年後見人は、預金通帳、年金の源泉徴収票、不動産の収支資料、証券会社の取引報告書などを整理し、本人の所得と必要経費を把握しておくことが重要です。

また、医療費や介護サービスの利用が多い場合には、医療費控除の対象となる支出がないか確認します。社会保険料、生命保険料、寄附金などについても、控除の適用漏れがないよう資料を保存しておく必要があります。

成年後見人は本人の法定代理人として税務上の手続を行う場面がありますが、所得の種類が多い場合や不動産・有価証券を保有している場合には、税理士へ申告書作成を依頼することも有効です。税理士が税務代理を行う場合には、税務代理権限証書を提出して申告手続を行います。

なお、家庭裁判所の審判により成年後見人自身が受け取る後見報酬は、被後見人の所得ではなく、受け取った成年後見人側の所得として課税関係を検討する必要があります。

さらに、成年被後見人が亡くなった場合、成年後見人の権限は原則として終了し、その後の所得税については相続人が準確定申告を行うことになります。成年後見業務では、日頃から収入・支出と税務資料を整理しておくことが、適切な財産管理と円滑な確定申告につながります。

【参考】国税庁:成年後見人が受領した報酬に係る収入金額の収入すべき時期について

関連コラム:成年後見制度と税理士

任意後見制度と相続対策

相続対策を考える際には、「亡くなった後に財産を誰へ渡すか」だけでなく、認知症などによって判断能力が低下した場合に、誰が財産を管理するのかを考えておくことも重要です。そのための選択肢の一つが「任意後見制度」です。

任意後見制度とは、判断能力が十分なうちに、将来判断能力が不十分となった場合に備えて、財産管理や生活・療養に関する事務を任せる人をあらかじめ決めておく制度です。任意後見契約は公正証書によって締結し、実際に判断能力が低下した後、家庭裁判所が任意後見監督人を選任することで効力が生じます。

例えば、預貯金の管理、不動産に関する手続、介護施設への入居契約などを任意後見人に委ねることができます。資産が多い方や賃貸不動産を保有している方にとっては、将来の財産管理を誰に任せるのかを事前に決めておく意味は大きいでしょう。

ただし、任意後見制度だけで相続対策が完結するわけではありません。任意後見は基本的に本人が存命中の財産管理を目的とする制度であり、誰にどの財産を相続させるかを決めるには遺言などを別途検討する必要があります。また、生前贈与や不動産の組替えなどを予定している場合には、本人の判断能力が十分な段階で実行することが重要です。

そのため、将来の対策としては、任意後見契約、公正証書遺言、生前贈与、生命保険、必要に応じて家族信託などを組み合わせて検討することが考えられます。

税理士は、現在の財産を整理し、将来の相続税額を試算したうえで、税務上の観点から生前対策を検討することができます。任意後見制度を考える際にも、法律専門家や公証人と連携しながら、「認知症への備え」と「相続への備え」を一体として考えておくことが大切です。

【参考】厚生労働省:成年後見はやわかり

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