ファミリーガバナンスについて

2026年6月5日、経済産業省は「ファミリーガバナンス・ガイダンス」を公表しました。ここでいうファミリービジネスとは、創業者やその一族が、世代を超えて株主または経営者として企業の存続・発展に重要な役割を果たす会社を指します。ガイダンスは主として非上場の中堅規模の企業を念頭に置いていますが、その考え方は上場・非上場、企業規模を問わず参考になります。

ファミリービジネスには、長期的な視点で経営できることや、迅速な意思決定が可能であることなどの強みがあります。一方で、会社の所有、経営、家族関係が重なり合うため、後継者の選定、株式の承継、配当方針、役員報酬、親族間取引などが、経営上の問題であると同時に家族間の問題にもなり得ます。経営者個人の調整力によって均衡が保たれている間は表面化しなくても、相続や世代交代を契機として、長年蓄積した認識の違いが一気に顕在化することがあります。

公認会計士の立場から見ると、ファミリーガバナンスの第一歩は「数字と関係性の可視化」です。誰がどの株式を保有し、議決権がどのように分布しているのか。会社とファミリーとの間に、貸付金、借入金、債務保証、不動産賃貸その他の取引がないか。事業承継時に必要となる資金や税負担を、会社のキャッシュ・フローで賄えるのか。こうした事実を一枚の図や一覧表に整理するだけでも、関係者の認識のずれが明らかになります。

その上で、①一族として大切にする理念・価値観、②会社経営に参加する親族の要件、③後継者の選定・育成方法、④株式の保有・譲渡、配当、親族間の紛争解決方法などを話し合います。必要に応じて、ファミリー会議の設置やファミリー憲章の策定、定款・株主間契約・遺言などへの反映も検討します。ただし、立派な文書を作ること自体が目的ではありません。合意したルールが実際の意思決定に使われ、環境の変化に応じて定期的に見直されることが重要です。

ガイダンスには、取組事項を「推奨」「重要」「選択」に区分したチェックリストも用意されています。しかし、すべての項目を形式的に満たせばよいというものではなく、株主構成、家族の人数、事業規模、成長段階などを踏まえ、自社に適した仕組みを選ぶことが求められます。

公認会計士は、財務諸表、株価算定、資金計画、内部統制、税務上の影響などを横断的に整理し、感情的になりやすい議論に客観的な材料を提供できます。また、法的な整備が必要な場合には弁護士、相続税や贈与税の検討には税理士など、他の専門家と連携する役割も担います。

ファミリーガバナンスは、相続が発生してから慌てて整備するものではありません。むしろ、経営も家族関係も安定している時期に対話を始めることが重要です。会社の未来と家族の関係を切り分けるのではなく、双方を持続可能な形で結び直すこと。それこそが、ファミリーガバナンスの本質ではないでしょうか。

参考

ファミリーガバナンス・ガイダンス参考資料 経済産業政策局

共通支配下の取引とは

企業グループ内で行われる組織再編や資産移転は、外部との取引とは異なる会計処理が求められます。その代表例が共通支配下の取引です。これは、最終的な支配者が変わらないグループ内での取引であり、通常の企業結合とは異なる考え方が適用されます。

1.共通支配下の取引の概要
共通支配下の取引とは、同一の支配者の下にある企業間で行われる取引をいいます。
例えば、親会社が子会社同士を合併させる、グループ内で事業を移転するといったケースが該当します。

2.通常の企業結合との違い
通常の企業結合では、取得原価を基準とした時価評価(パーチェス法)が適用されます。
一方、共通支配下の取引では、帳簿価額(簿価)を引き継ぐという特徴があります。

3.なぜ簿価引継ぎなのか
共通支配下の取引では、グループ全体としての経済実態に変化がないため、時価評価を行わず、従来の帳簿価額を維持する考え方が採用されています。

4.実務上の重要ポイント
(1)支配の継続性
共通支配下かどうかは、最終的な支配者が変わっていないかで判断されます。
(2)のれんの発生有無
通常の企業結合と異なり、原則としてのれんは発生しません。
(3)資本取引との関係
共通支配下の取引は、損益取引ではなく資本取引として扱われる場合が多く、利益計上の有無に注意が必要です。

共通支配下の取引は、グループ内の再編取引、簿価引継ぎが原則、損益ではなく資本取引という特徴があります。

共通支配下は外部取引ではないという視点がすべてです。
グループ再編は企業戦略上重要な手段ですが、その会計処理を誤ると財務数値に大きな影響を与えます。支配の継続性を正しく捉え、適切な会計処理を行うことが、財務情報の信頼性を確保する上で不可欠といえるでしょう。

【参考】ASBJ:企業結合に関する会計基準

関連コラム:企業結合における逆取得

成年後見制度と家族信託の違い

認知症などによって判断能力が低下した場合に備える方法として、「成年後見制度」と「家族信託」があります。似た制度と思われがちですが、その目的やできることには大きな違いがあります。

成年後見制度は、判断能力が不十分な本人を法律面・生活面から支援する制度です。法定後見では、判断能力が低下した後に家庭裁判所が成年後見人等を選任し、預貯金の管理、不動産に関する手続、介護施設への入居契約などを本人に代わって行います。任意後見では、判断能力が十分なうちに、将来支援してもらう人や委任する内容をあらかじめ決めておくことができます。

これに対し、一般に家族信託と呼ばれる民事信託は、自宅や賃貸不動産、預貯金などの財産を、信頼できる家族等に託して管理・処分してもらう仕組みです。本人の判断能力が低下した後も、信託契約の内容に従って受託者が財産を管理できる点に特徴があります。

また、家族信託では、「本人の死亡後は配偶者、その後は子へ」といった財産承継の設計も可能であり、財産管理について比較的柔軟な設計ができます。一方、身上保護や介護契約など、本人自身に関する幅広い法律行為については、成年後見制度の役割が重要となります。

税務面では、家族信託を利用しただけで相続税や贈与税が節税できるわけではありません。受益者を誰にするか、受益権をいつ移転するかによって贈与税・相続税の課税関係が変わるため注意が必要です。

そのため、成年後見制度と家族信託は二者択一ではなく、財産構成や家族関係によって併用することも考えられます。認知症対策と相続対策を検討する際には、税理士、司法書士、弁護士等と連携し、将来の財産管理と承継を一体として設計することが重要です。

【参考】一般社団法人 家族信託普及協会:家族信託とは?

関連コラム:成年後見人になった場合の確定申告

任意後見制度と相続対策

相続対策を考える際には、「亡くなった後に財産を誰へ渡すか」だけでなく、認知症などによって判断能力が低下した場合に、誰が財産を管理するのかを考えておくことも重要です。そのための選択肢の一つが「任意後見制度」です。

任意後見制度とは、判断能力が十分なうちに、将来判断能力が不十分となった場合に備えて、財産管理や生活・療養に関する事務を任せる人をあらかじめ決めておく制度です。任意後見契約は公正証書によって締結し、実際に判断能力が低下した後、家庭裁判所が任意後見監督人を選任することで効力が生じます。

例えば、預貯金の管理、不動産に関する手続、介護施設への入居契約などを任意後見人に委ねることができます。資産が多い方や賃貸不動産を保有している方にとっては、将来の財産管理を誰に任せるのかを事前に決めておく意味は大きいでしょう。

ただし、任意後見制度だけで相続対策が完結するわけではありません。任意後見は基本的に本人が存命中の財産管理を目的とする制度であり、誰にどの財産を相続させるかを決めるには遺言などを別途検討する必要があります。また、生前贈与や不動産の組替えなどを予定している場合には、本人の判断能力が十分な段階で実行することが重要です。

そのため、将来の対策としては、任意後見契約、公正証書遺言、生前贈与、生命保険、必要に応じて家族信託などを組み合わせて検討することが考えられます。

税理士は、現在の財産を整理し、将来の相続税額を試算したうえで、税務上の観点から生前対策を検討することができます。任意後見制度を考える際にも、法律専門家や公証人と連携しながら、「認知症への備え」と「相続への備え」を一体として考えておくことが大切です。

【参考】厚生労働省:成年後見はやわかり

関連コラム:成年後見制度と家族信託の違い

企業結合における逆取得

企業結合の会計処理では、どちらの会社が取得企業かを適切に判断することが極めて重要です。通常は株式を取得した会社が取得企業となりますが、実務上はこの形式的な判断が実態と一致しないケースがあります。このような場合に適用されるのが逆取得(リバースアクイジション)です。

1.逆取得の概要
逆取得とは、法的な買収主体と会計上の取得企業が異なる取引をいいます。
例えば、A社(非上場)が、B社(上場会社)を株式交換で取得という形式でも、実質的にはA社がB社を支配している場合、A社が会計上の取得企業となります。

2.なぜ逆取得が問題になるのか
企業結合会計では、取得企業を基準に財務諸表を作成します。
そのため、取得企業の判断を誤るとのれんの金額、資産・負債の評価、連結財務諸表の構造が大きく変わってしまいます。

3.取得企業の判断基準
逆取得かどうかは、実質的な支配関係で判断されます。
具体的には、議決権の過半数の帰属、取締役の構成、経営方針の決定権などを総合的に検討します。

4.実務上の重要ポイント
(1)株式価値の測定
逆取得では、被取得企業(形式上の親会社)の株式を基準に評価するため、通常とは逆の視点が必要です。
(2)のれんの計上
のれんは、実質的な取得企業の観点で算定されます。
(3)上場維持スキームとの関係
逆取得は、いわゆる裏口上場(バックドア上場)のスキームで用いられることが多く、開示や監査上の重要論点となります。

逆取得は、形式と実態が逆転する取引、支配の実態で判断、会計処理に大きな影響という特徴があります。

企業結合は誰が支配しているかで全てが決まります。
逆取得は高度な判断を要する分野であり、会計・開示・監査のすべてに影響を与えます。形式にとらわれず実態を見極めることが、適正な財務報告を実現するための鍵といえるでしょう。

【参考】ASBJ:企業結合に関する会計基準

関連コラム:共通支配下の取引とは