交換比率の算定

株式交換、株式移転、合併などの組織再編では、「交換比率」の決定が重要な論点となります。交換比率とは、一方の会社の株式1株に対して、相手方の会社の株式を何株交付するかを示す比率です。

基本的な考え方は、双方の「1株当たり株式価値」を比較することです。例えば、A社の1株当たり株式価値が2,000円、B社が1,000円と評価された場合、B社株式1株に対してA社株式0.5株を交付することが、一つの基準となります。ただし、実際の交換比率はこの計算だけで自動的に決まるものではなく、企業価値評価を参考に当事者間の交渉を経て決定されます。

株式価値の評価方法には、上場会社の株価を基礎とする「市場株価法」、類似する上場会社のPERやEBITDA倍率などを参考にする「類似会社比較法」、将来のフリー・キャッシュ・フローを現在価値に割り引く「DCF法」などがあります。非上場会社では市場株価が存在しないため、DCF法や類似会社比較法、純資産を基礎とする方法などを組み合わせて検討することが一般的です。

特に親子会社間の株式交換など、少数株主との利益相反が生じる取引では、交換比率の公正性が重要となります。そのため、独立した第三者算定機関から株式価値・交換比率算定書を取得したり、必要に応じてフェアネス・オピニオンを取得したりすることがあります。

交換比率は、組織再編後の株主構成や議決権割合を直接左右します。算定に当たっては、一つの評価方法だけに依存せず、各手法の特徴を理解したうえで評価レンジを比較し、その比率を採用した理由を合理的に説明できるようにしておくことが重要です。

【参考】ASBJ:企業会計基準適用指針第10号 企業結合会計基準及び事業分離等会計基準に関する適用指針

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初めてのM&Aの留意点

企業買収(M&A)は、新規事業への参入、事業エリアの拡大、人材・技術・顧客基盤の獲得など、企業成長を加速させる有効な手段です。一方で、初めての買収では「良い会社を適正な価格で買う」ことだけでなく、買収後に想定した成果を実現できるかまで見据えて検討することが重要です。

まず確認すべきなのは、買収の目的です。「売上を増やしたい」「人材を確保したい」といった抽象的な理由だけではなく、買収によってどの事業を強化し、何年後にどの程度の利益やシナジーを実現したいのかを明確にしておく必要があります。目的が曖昧なまま案件ありきで進めると、買収価格の妥当性を判断しにくくなります。

次に重要なのがデューデリジェンスです。財務面では、売上や利益の推移だけでなく、一時的な利益、回収困難な債権、過大な在庫、簿外債務、設備投資の必要性などを確認します。税務・法務・人事労務についても、未払税金、訴訟、契約上の制約、未払残業代など、買収後に負担となるリスクがないかを検討します。

また、株価算定では、DCF法、マルチプル法、純資産法などを用いて企業価値を検討しますが、算定された株価と「実際に支払ってよい価格」は必ずしも同じではありません。買収後に必要となる追加投資や統合コストも含めて判断することが重要です。

さらに、買収後のPMI(経営統合)も成否を左右します。会計方針、資金管理、人事制度、ITシステム、権限規程などをどのように統合するか、買収前から計画しておく必要があります。特に中小企業の買収では、経営者やキーパーソンの退職が企業価値を大きく損なうこともあります。

初めての企業買収では、案件を成立させること自体を目的とせず、「買収後に企業価値を高められるか」という視点を持つことが重要です。公認会計士等の専門家を活用し、財務・税務・株価算定・PMIまで一貫して検討することで、M&Aに伴うリスクを抑えることができます。

M&Aにおけるレーマン方式

M&Aにおいて、仲介会社やアドバイザーへ支払う成功報酬の算定方法として広く用いられているのがレーマン方式です。取引金額に応じて一定の料率を段階的に適用する仕組みであり、シンプルで分かりやすい一方、計算対象の定義によって報酬額が大きく変わるため、契約時の確認が重要となります。

1.レーマン方式の概要

レーマン方式とは、取引金額に応じて料率を段階的に適用する成功報酬の計算方法です。
具体的な例示としては、以下のような料率体系のものです。
(例)取引金額:料率
5億円以下:5%
5億円超〜10億円以下:4%
10億円超〜50億円以下:3%
50億円超〜100億円以下:2%
100億円超:1%
金額が大きくなるほど料率が下がる逓減構造となっています。

2.計算方法のポイント
重要なのは、どの金額を基準に計算するかです。
主な考え方としては株式譲渡価格のみ、企業価値(株式価値+有利子負債)、移動総資産ベースがあります。
この違いにより、報酬額が大きく変動するため、契約書の確認が不可欠です。

3.実務上の重要ポイント
(1)最低報酬の設定
多くの契約では、最低報酬額(例:2,000万円など)が設定されています。
小規模案件でも一定額の報酬が発生する点に注意が必要です。
(2)中間報酬の有無
成功報酬とは別に、着手金、中間金、が設定される場合があります。
(3)税務上の取扱い
M&A報酬は原則として、取得関連費用として資産計上(株式取得の場合)となるケースが多く、損金算入の可否には注意が必要です。
(4)利益相反のリスク
レーマン方式は、取引金額が大きいほど報酬が増えるため、不要な高値交渉、スキーム誘導といった利益相反のリスクも指摘されています。

レーマン方式は、M&A報酬の代表的手法で逓減料率による計算によるものです。報酬計算の基準金額の定義が重要になります。
M&Aは一度の取引で多額の資金が動くため、報酬設計の影響も大きくなります。契約締結前に計算方法を正確に理解し、想定外のコストを防ぐことが重要といえるでしょう。

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M&Aの手法・法的形態について

M&Aには様々な手法・法的形態がありますので、その種類についてご説明します。
買収という言葉は、一般的に他社の株式の取得や合併を意味していますが、法律用語ではありません。
M&Aに関し、代表的な組織再編手法である株式取得、合併、会社分割、事業譲渡について、以下で触れていきます。

株式譲渡
株式譲渡は、被買収企業の発行済株式を持つ株主が、買収企業にその株式を譲渡する方法です。
株式譲渡が行われると、株主が変わり、一般的に社長を含む役員が入れ替えられますが、会社の事業、社名、取引先、顧客等は変わらず、事業運営に関しては外部からの見た目は変わりません。

合併
合併は、複数の会社が1つの会社になる組織再編手法です。合併には、吸収合併と新設合併があります。吸収合併と新設合併では、既存の会社に統合されるか、新しく会社を設立して統合するかの違いがあります。
吸収合併:会社が他の会社とする合併であって、合併により消滅する会社の権利義務の全部を合併後存続する会社に承継させるものをいう。
新設合併:2以上の会社がする合併であって、合併により消滅する会社の権利義務の全部を合併により設立する会社に承継させるものをいう。

会社分割
会社分割は、会社の事業に関して有する権利義務の全部または一部を他の会社に承継させる組織再編手法です。吸収分割と新設分割があり、会社の一部を切り出して、その切り出した事業の権利義務を包括的に他の会社に引き継がせるか、新しい会社を作って引き継がせるかに違いがあります。
吸収分割:株式会社または合同会社がその事業に関して有する権利義務の全部または一部を分割後他の会社に承継させることをいう。
新設分割:1または2以上の株式会社または合同会社がその事業に関して有する権利義務の全部または一部を分割により設立する会社に承継させることをいう。

事業譲渡
事業譲渡とは、会社の事業の全部または一部を売買する手法です。吸収分割との相違は、必要な事業だけを譲渡するため、事業に関して有する権利義務が包括的に承継されないことです。そのため、事業譲渡では、買手側では不要な資産や簿外負債を引き受けるリスクを回避できる一方、譲渡対象となる個々の資産の名義替えや契約を再契約する必要があるため、手続が煩雑になります。

上記の他、以下のような手法が用いられます。
株式交換
株式交換は、自社株式を対価として他社の株式を引受け、他社を100%子会社化する手法です。

株式移転
株式移転は、1社または2以上の会社が親会社となる会社を設立し、その新会社の株式と傘下となる株式を交換する持株会社を中心とする企業グループを形成する手法です。

第三者割当増資
第三者割当増資は、会社が新たに株式を発行し、特定の第三者に株式を引き受ける権利を割り当てる手法です。

TOB(株式公開買付)
TOB(株式公開買付)は、Take Over Bidの略語で、株式市場で不特定多数の株主から買い取り、支配権を獲得する手法です。

どの手法を使うべきか、どの手法を使うのが有利かはケースバイケースです。

関連コラム:M&A戦略・M&Aの実施目的について

【参考】経済産業省:中小M&Aハンドブック

M&A戦略・M&Aの実施目的について

昨今、M&Aがよく行われる時代となっていますが、バイサイド(買い手)及びセルサイド(売り手)の一般的なM&A戦略・M&Aの実施目的についてご説明します。

バイサイドでは基本的には成長、技術、人材を時間をお金で買うという投資がメインとなります。セルサイドでは、清算や撤退の回避、後継者問題の回避やエグジットが目的となります。

バイサイドのM&Aの実施目的
①既存事業の拡大
既存事業の生産能力や販路を強化し、会社規模の拡大や市場シェアを拡大するためにM&Aを活用します。買収後のコストシナジーによる規模の経済の享受、販売戦略の強化等を図ることができます。

②新規事業分野への進出・事業の多角化
新たな分野に進出する際に、既に新規の事業を営む会社を取得することで、ノウハウや販路を効率的に取得し、時間をかけずに新規分野に進出するためにM&Aを活用します。バリュー・チェーンの川上または川下へと事業を広げていく垂直統合を目的に実施されるケースもあります。

③成長スピードの加速
新規事業を立ち上げるためや研究開発の莫大なコストと膨大な時間を節約し、自社独力よりもはるかに速いスピードで成長するためにM&Aを活用します。

セルサイドのM&Aの実施目的
①後継者問題の解決
高齢、子供に事業を継ぐ意思や能力がない、子供に個人保証を引き継がせたくない、従業員に社長を引き継ぐような人材が育っていないまたは経営能力を持つ人材がいない等の後継者問題を第三者への売却により解決できます。

②不採算部門からの撤退、清算の回避
不採算部門を売却し、その資金をコアとなる事業に投下し、本業に経営資源を集中することができます。

③創業者利益の獲得
創業者は、会社を売却することで、事業の現金化できます。会社経営から引退して余生を楽しみたい、別の人生を歩む資金としたい等、第二の人生をスタートする資金を得ることができます。

上記は、一般的なM&A戦略・M&Aの実施目的なので、より深い戦略に基づいたM&Aやその他の目的もあります。会社を買う、会社を売るという選択肢が会社や経営者の戦略の幅を広げたのは間違いありません。

【参考】経済産業省:中小M&Aハンドブック

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