債務確定主義

法人税法では、恣意性排除及び課税の公平性の確保する必要があるため、減価償却費を除く費用項目(売上原価、販売費及び一般管理費、損失の額)について債務確定主義を採用しています。債務確定主義では、法律上の裏付けによる権利・債務が確定した時点をもって計上を行います。発生主義では、収益・費用の発生を経済的事実に基づいて費用計上を行いますが、債務確定主義のように法律上の裏付けを必ずしも必要としません。
企業会計では期間損益計算を適正に行うため、将来発生することが見込まれる費用を引当金として見積計上しますが、債務確定主義を採用する法人税法では別段の定めを除き、損金の額に算入されません。

法人税法上、債務が確定しているものとは、以下の要件の全てに該当するものをいいます。
1.当該事業年度終了の日までに当該費用に係る債務が成立していること。
2.当該事業年度終了の日までに当該債務に基づいて具体的な給付をすべき原因となる事実が発生していること。
3.当該事業年度終了の日までにその金額を合理的に算定することができるものであること。

債務確定主義と発生主義の相違点としては、賞与引当金及びその法定福利費の未払計上分が該当し、別表四で加算処理されます。

なお、所得税法においても、売上原価、販売費及び一般管理費はその年において債務が確定しているものに限るとされており、債務確定主義が採用されています。
所得税法上の確定債務は、以下の要件の全てに該当するものをいいます。
1.その年の12月31日までに債務が成立していること。
2.その年の12月31日までにその債務に基づいて具体的な給付をすべき原因となる事実が発生していること。
3.その年の12月31日までに金額が合理的に算定できること。

【参考】国税庁:販売費、一般管理費その他の費用における債務確定の判定

関連コラム:法人設立時の提出書類

ストックオプションに係る税制

ストックオプションとは
ストックオプション制度とは、会社が取締役や従業員に対して、予め定めた価額(権利行使価額)で会社の株式を取得することのできる権利(ストックオプション)を付与し、取締役や従業員が将来、株価の上昇した時点で権利行使を行い、会社の株式を取得及び売却で、株価上昇分の経済的な利益が得られる報酬制度を指します。

ストックオプション行使及び株式売却による報酬額が、企業の業績向上による株価の上昇と直接連動することから、権利を付与された取締役や従業員の株価に対する意識は高まり、業績向上のインセンティブとなります。
そして、業績向上による株価上昇は株主にとっても利益をもたらすこととなります。
ストックオプション制度は、新株予約権の無償発行に該当します。

ストックオプションに関する税制(所得税法)
原則、ストックオプションの権利を行使時の株価が権利行使価額を上回っている部分について給与所得として課税されます。また、株式の売却時に、譲渡価額と権利行使時の株価との差額部分について譲渡所得として課税がされます。これは、税制非適格ストックオプションと言われます。

税制適格ストックオプションの場合には、権利行使時の課税は繰延べられて、株式売却時に売却価額と権利行使価額との差額が譲渡所得として課税されます。

税制非適格ストックオプションでは、給与所得として総合課税され、高い税率が課せられる、権利行使はしていても売却を行っていなければ、キャッシュインより課税が早いというデメリットがあります。
税制適格ストックオプションでは、株式売却時に20.315%税率の譲渡所得の申告分離課税で完結するため、売却後の納税、低税率というメリットがあります。

税制適格ストックオプションの要件
税制適格ストックオプションの主な要件は以下のようになっています。
・会社法に沿って発行された新株予約権で、無償で発行されたもの。

・以下の株式比率以内
-上場株式の場合:発行済株式総数の10分の1以下
-非上場株式の場合:発行済株式総数の3分の1以下

・権利行使価額が年間1,200万円以下。

・新株予約権に係る契約における要件
-新株予約権の付与決議の日から2年を経過した日から10年を経過する日までの間に新株予約権の行使を実施。
-権利行使価額の年間の合計額が、1,200万円を超えないこと。
-権利行使価額は、新株予約権等に係る契約の締結時における、株価に相当する金額以上であること。
-新株予約権の譲渡制限。
等となります。

なお、税制適格ストックオプションを発行した会社は、特定新株予約権等の付与に関する調書を翌年1月31日までに税務署長に提出する必要があります。

【参考】国税庁:税制非適格ストック・オプションに係る課税関係について

【参考】国税庁:ストック・オプション税制の適用を受けて取得した株式を譲渡した場合

関連コラム:法人税法の役員報酬に関する規制

医療法人会計基準の概要

医療法人会計基準の概要についてご説明します。

まず、医療法人会計基準の適用対象は以下の法人となります。
・医療法人
-最終会計年度の貸借対照表の負債の部に計上した額の合計額が50億円以上又は損益計算書の事業収益の部に計上した額の合計額が70億円以上
・社会医療法人
-最終会計年度の貸借対照表の負債の部に計上した額の合計額が20億円以上又は損益計算書の事業収益の部に計上した額の合計額が10億円以上
-社会医療法人債を発行していること
なお、最終会計年度は直前の会計年度を指します。

医療法人会計基準に定められている内容以外の会計処理については、一般に公正妥当と認められた会計基準に準拠する必要があります。現金主義会計を行っている場合には、発生主義会計への変更が必要となります。

負債総額が200億円未満であれば、以下のような簡便法による会計処理が可能とされています。
・期末自己都合要支給額により退職給付債務とする退職給付引当金の計上(新たに退職給付引当金を計上する場合には、適用時差異として分割償却することが可能。その場合損益計算書では特別損失に計上)
・リース取引開始日が、前々会計年度末日の負債総額が200億円未満である会計年度である、所有権移転外ファイナンス・リースは賃貸借処理を行うことができる。リース取引開始日が、医療法人会計基準の適用前の会計年度である所有権移転外ファイナンス・リースは賃貸借処理を行うことができる。
・前々会計年度末日の負債総額が200億円未満の場合に法人税法における貸倒引当金の繰入限度額を計上する。

その他の会計基準の採用についてですが、資産除去債務に関する会計基準等、必ずしも企業会計と同様に適用することが求められているわけではありません。医療法人会計基準に記載のない会計基準を適用しないことが、財務諸表利用者の誤解を招く恐れがある場合には、適用の必要性を監査人と十分に協議する必要があります。

医療法人会計基準で要求される注記事項としては、以下のものが挙げられています。
・重要な会計方針
一 資産の評価基準及び評価方法
二 固定資産の減価償却の方法
三 引当金の計上基準
四 消費税及び地方消費税の会計処理の方法
五 その他貸借対照表等作成のための基本となる重要な事項

・会計方針の変更に関する記載

・貸借対照表等に関する注記
一 継続事業の前提に関する事項
二 資産及び負債のうち、収益業務に関する事項
三 収益業務からの繰入金の状況に関する事項
四 担保に供されている資産に関する事項
五 法第五十一条第一項に規定する関係事業者に関する事項
六 重要な偶発債務に関する事項
七 重要な後発事象に関する事項
八 その他医療法人の財政状態又は損益の状況を明らかにするために必要な事項

注記事項について、重要性の乏しいものは省略することができます。

【参考】厚生労働省:医療法人会計基準

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税効果会計に係る会計基準の一部改正

平成30年2月16日に、税効果会計に係る会計基準の一部改正が行われました。
それに合わせて、下記の適用指針も一部改正が行われています。
・税効果会計に係る会計基準の適用指針
・繰延税金資産の回収可能性に関する適用指針
・中間財務諸表等における税効果会計に関する適用指針
改正内容は、平成30年4月1日以後開始する連結会計年度及び事業年度の期首から適用することとされています。

その改正内容について、解説させていただきます。

【個別財務諸表における子会社株式等に係る将来加算一時差異の取扱い】
従来は、個別財務諸表における子会社株式及び関連会社株式に係る将来加算一時差異について、一律、繰延税金負債を計上することとされていました。改正後においては、個別財務諸表における子会社株式及び関連会社株式に係る将来加算一時差異の取扱いを連結財務諸表における子会社及び関連会社に対する投資に係る将来加算一時差異の取扱いに合わせました。
子会社及び関連会社に対する投資の売却等を自身で決めることができ、かつ、予測可能な将来の期間にその売却等を行う意思がない場合を除いて、繰延税金負債を計上することに見直すこととされました。

【(分類1)に該当する企業における繰延税金資産の回収可能性に関する取扱い】
繰延税金資産の回収可能性に関する適用指針において、「(分類1)に該当する企業においては、原則として、繰延税金資産の全額について回収可能性があるものとする。」と「原則として、」が追加されました。これは、完全支配関係にある国内の子会社株式の評価損について、企業が当該子会社を清算するまで当該子会社株式を保有し続ける方針がある場合等、将来において税務上の損金に算入される可能性が低いときに当該子会社株式の評価損に係る繰延税金資産の回収可能性はないと判断することが適切であることを明確にするものであるとされています。

【表示】
従来は、繰延税金資産及び繰延税金負債は、関連した資産・負債の分類に基づいて、流動固定分類をすることが定められていました。改正においては、繰延税金資産は投資その他の資産の区分に表示し、繰延税金負債は固定負債の区分に表示することとされており、すべて固定区分で表示することとなりました。

【注記事項】
・評価性引当額の内訳に関する数値情報
繰延税金資産の発生原因別の主な内訳(以下「発生原因別の注記」)として、税務上の繰越欠損金を記載している場合であって、当該税務上の繰越欠損金の額が重要であるときは、これまで発生原因別の注記に示されていた評価性引当額の合計額を、税務上の繰越欠損金に係る評価性引当額と将来減算一時差異等の合計に係る評価性引当額に区分して記載することとされています。

・評価性引当額の内訳に関する定性的な情報
評価性引当額に重要な変動が生じている場合、当該変動の主な内容を記載することとされています。

・税務上の繰越欠損金に係る繰越期限別の数値情報
発生原因別の注記として税務上の繰越欠損金を記載している場合で、その金額が重要であるときは、繰越期限別に次の数値を記載することとされています。
-税務上の繰越欠損金の額に税率を乗じた額(発生原因別の注記に記載されている額)
-税務上の繰越欠損金に係る評価性引当額
-税務上の繰越欠損金に係る繰延税金資産

・税務上の繰越欠損金に関する定性的な情報
財務諸表利用者が繰越欠損金に係る繰延税金資産の回収可能性を評価できないことから、税務上の繰越欠損金に係る重要な繰延税金資産を回収可能と判断した主な理由を記載することとされています。

・連結財務諸表を作成している場合の個別財務諸表における注記事項
連結財務諸表を作成している場合、個別財務諸表における税効果会計に関する注記事項については、評価性引当額の内訳に関する数値情報のみを追加することとされています。

特に注記事項が大きく改正されました。

【参考】企業会計基準委員会 企業会計基準第28号
「税効果会計に係る会計基準」の一部改正

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消費税の軽減税率制度

平成31年10月1日から、消費税率の10%への引き上げに合わせて「酒類・外食を除く飲食料品」と「週2回以上発行される新聞(定期購読契約に基づくもの)」を対象に消費税の軽減税率制度が実施されます。
軽減税率制度は、軽減税率の対象品目を取扱う事業者だけではなく、軽減税率の対象品目の売上げがない事業者や、消費税の納税義務のない免税事業者を含め、全ての事業者に関係のある制度です。

【消費税率について】
平成31年10月1日からの消費税の国税分、地方税分は以下のようになります。
消費税の軽減税率は現行の8%と同じですが、消費税率と地方消費税率の割合が異なります。

消費税区分 現行 平成31年10月1日以降
軽減税率 標準税率
消費税率 6.3% 6.24% 7.8%
地方消費税率 1.7% 1.76% 2.2%
合計 8.0% 8.0% 10.0%

【区分記載請求書等保存方式】
軽減税率制度の実施に伴い、消費税の税率が軽減税率と標準税率の複数税率となることから、事業者は消費税の申告を行うために、税率の異なる取引ごとに区分して記帳する区分経理を実施する必要があります。消費税の仕入税額控除の適用に帳簿及び請求書の保存が要件となっていましたが、平成31年10月1日以降は、区分経理に対応した帳簿及び請求書の保存が要件となります。

【税額計算の特例】
区分経理を行うことが困難な中小事業者(基準期間における課税売上高が5,000万円以下の事業者)には経過措置として、売上税額の計算の特例や仕入税額の計算の特例が設けられています。

【適格請求書等保存方式】
複数税率に対応した仕入税額控除の方式として平成35年10月1日から「適格請求書等保存方式(インボイス制度)」が導入されます。適格請求書発行事業者として税務署長の登録を受けた課税事業者から交付を受けた適格請求書の保存が仕入税額控除の要件となります。適格請求書発行事業者としての登録は、平成33年10月1日から申請可能です。

小売業のPOSレジの改修等実務上や新規投資へ影響は大きく、中小企業・小規模事業者等が複数税率対応レジの導入や、発注システムの改修等を行う際(リースによる導入も補助対象)に、その経費の一部を補助する「軽減税率対策補助金」の制度も創設されています。

【参考】国税庁:消費税及び地方消費税の税率

関連コラム:消費税簡易課税制度

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