デット・エクイティ・スワップの会計と税務

金融商品に関する会計基準並びに実務対応報告第6号デット・エクイティ・スワップの実行時における債権者側の会計処理に関する実務上の取扱い及びデット・エクイティ・スワップの税務についてご説明します。

デット・エクイティ・スワップとは
デット・エクイティ・スワップ(Debt Equity Swap)とは、DESと呼ばれ、再建計画等の一環の中で、債権者の債権を債務者に現物出資することで、債務と株式を交換し、債務を株式化することをいいます。DESにより、経営不振の債務者は債務超過を解消でき、金融機関や企業再生ファンド等の債権者は債務と交換で株式を受け取り、経営に影響力を持つ株主となることができます。

デット・エクイティ・スワップの会計処理
民法520条で「債権者がその債権を債務者に現物出資した場合、債権と債務が同一の債務者に帰属し当該債権は混同により消滅する」とされており、支配が他に移転したかどうかを検討するまでもなく金融資産の消滅の認識要件を満たすものと考えられます。
債権者は債権の消滅を認識するとともに、消滅した債権の帳簿価額とその対価としての受取額との差額を、当期の損益として処理します。
債権者が取得する株式は、債権とは異なる新たな資産と考えられ、債権者が取得する株式の時価が対価としての受取額(譲渡金額)となります。消滅した債権の帳簿価額と取得した株式の時価の差額は当期の損益として処理され、株式は時価で計上されます。
なお、株式の時価は、市場価格がある場合には市場価格を用い、市場価格がない場合には合理的に算定された価額を用います。合理的に算定された価額は、債権放棄額や増資額等の支援額の十分性、債務者の再建計画等の実行可能性、株式の条件等を考慮し、算定します。
債権切捨てと実質的に同様と考えられる債権放棄の代わりに債権者がデット・エクイティ・スワップに応じる場合には、取得する株式の時価はゼロに近くなると考えられます。

デット・エクイティ・スワップの税務
完全支配関係がある法人間のデット・エクイティ・スワップで適格要件を満たすものは適格現物出資、それ以外は非適格現物出資になるものと考えられ、非適格現物出資の際に債務者の債務消滅益への課税が問題となります。

適格現物出資の場合
完全支配関係のある法人間の適格現物出資では、債権の簿価がそのまま引き継がれるので、債務消滅益は発生しません。
非適格現物出資の場合
非適格現物出資に該当するデット・エクイティ・スワップの場合、債務者側において新株発行において増加する資本金等の額は、債権の時価となります。債権の時価相当額について資本金等の額を増加させ、債権の時価相当額と株式額面金額との差額は債務免除益として税務上認識されます。金融機関などの第三者によってデット・エクイティ・スワップが実施される場合は非適格現物出資となり、債務消滅益が発生します。

事業再生として行われるので、合理的な再建計画によるデット・エクイティ・スワップにおいては、債権の額面と株式の時価との差額が、債権者において損金として取り扱われます。ただし、デット・エクイティ・スワップを含む再建計画が経済合理性のない過剰支援と認められる場合には、債権者から債務者に対する寄付金と認定される場合もあります。

会社更生法及び民事再生法に基づく再生手続、特別清算、破産手続が開始した場合等の再生手続中の債務者であれば、期限切れ欠損金を繰越欠損金に優先して損金算入して債務消滅益から控除することができます。

【参考】企業会計基準委員会 実務対応報告第6号
デット・エクイティ・スワップの実行時における債権者側の会計処理に関する実務上の取扱い

関連コラム:金融商品の発生及び消滅の認識について

同族会社の判定要件と留意点

同族会社の定義
同族会社とは、会社の株主等の3人以下並びにこれらと特殊な関係にある個人や法人が発行済株式総数の50%超、または議決権の50%超、またはその会社の社員の総数の半数超を保有している会社をいいます。
なお、特殊な関係にある個人や法人とは、以下のとおりです。
1.株主等の親族(配偶者、六親等以内の血族、三親等以内の姻族)
2.株主等と事実上の婚姻関係にある者
3.株主等の使用人
4.株主等から受ける金銭やその他の資産により生計を立てている者
5.株主等並びに株主等と特殊関係のある個人及び法人で他の会社を発行済株式又は出資の50%超を所有している場合の当該他の会社。

同族会社に特有な税制
同族会社は少数の特定株主により意思決定でき、会社の行為や計算を操作して、法人税や所得税の負担を軽減することが可能なため、特別な規定が設けられています。
①みなし役員や使用人兼務役員の判定
形式的に役員の名称を持っている者だけでなく、みなし役員として実質的に法人の経営に従事している者も役員の範囲に含める規定があります。法人税法上、役員に支給した過大な給与は損金にできず、形式的に役員から除外することを防止するために、形式ではなく実質で役員判定を行うものです。

②留保金課税
個人株主に対する所得税は超過累進税率によって課税されます。個人株主の所得税負担を軽減するため、配当を少なくし、会社内部に利益を留保することができます。上位1株主グループで持株割合が50%超となる特定同族会社では法人の留保金に課税する規定があります。ただし、資本金等の額が1億円以下の特定同族会社については留保金課税の適用はありません。
なお、留保金課税は以下の方法で算出されます。
留保金額-留保控除額×税率=留保金課税

留保金額=会社の課税所得+課税外収入項目-社外流出の金額-法人税
留保控除額は、次の基準額のうち最も多い金額を使用します。
(1)所得基準額:所得等の金額の40%相当
(2)定額基準額:2,000万円×当期の月数/12
(3)利益積立金基準額:期末資本金の25%相当-(期首利益積立金額-前期末配当額)
税率は3,000万円以下は10%、3,000万円~1億円以下は15%、1億円を超える金額は20%となっています。

③適正な取引が行われたものとして課税所得や法人税額などを計算
税務署長は、所得を移転するような異常な取引(低価格で関係会社へ販売する等)を適正な取引が行われたものとして法人税等の課税所得や法人税額などを計算することができるという規定があります。

【参考】国税庁:同族会社

関連コラム:法人税法の役員報酬に関する規制

使途秘匿金の税務上の取り扱い

法人が交際費、機密費、接待費等の名義をもって支出した金銭で、その使途が明らかでないものは使途秘匿金と呼ばれます。
使途秘匿金と認められる支出をした場合には、損金として認められないだけでなく、その支出をした事業年度の通常の法人税額に、その使途秘匿金の支出額の40%が加算されます。

使途秘匿金とみなされる支出の条件は、相当の理由がなく以下の3つを帳簿に記載していないものです。
1.支出先の氏名又は名称がわからない
2.住所又は所在地がわからない
3.支出した理由がわからない

通常の会社経営でお金の使途が不明というものはありえません。相手方を意図的に隠す支出は、不正な裏金になりやすいので、制裁課税で防止するのが本制度の趣旨です。

役員報酬等に上乗せし、個人のポケットマネーから払うことで、使途秘匿金課税の対策をするしかないと思われます。
役員報酬は法人税上損金として認められないことになりますが、個人が行うことですから、法人税の税務調査と直接関係はないことになります。

極力このような支出を避けて、健全な事業運営を行うことが望まれます。

【参考】国税庁:法人税の重加算税の取扱いについて(事務運営指針)

関連コラム:交際費の税務上の論点

交際費の税務上の論点

顧客との飲食等の交際費は、営業活動上で必要な経費ですが、企業の交際費の支出を無制限に認めると、接待目的の飲食費で法人税の負担がいくらでも軽減され健全な企業活動が妨げられ、ひいては税収の確保にも支障をきたします。接待交際費の支出を政策的に抑制する意図もあり、税法上、交際費の損金算入限度額が設定されています。

交際費の定義は以下のように定められています。
交際費等とは、交際費、接待費、機密費その他の費用で、法人が、その得意先、仕入先その他事業に関係のある者等に対する接待、供応、慰安、贈答その他これらに類する行為のために支出する費用をいいます。

会計上は、接待交際費以外の福利厚生費や雑費等の費目を用いていても、上記の定義に当てはまる場合には税法上の交際費等として扱われます。

なお、税務上の交際費等から以下項目は除かれます。
1.専ら従業員の慰安のために行われる運動会、演芸会、旅行等のために通常要する費用
2.飲食費のうち1人あたりの金額が5,000円以下である費用
この2.に該当するためには以下の事項を記載した書類を保存する必要があります。
・飲食等の年月日
・飲食等に参加した得意先、仕入先その他事業に関係のある者等の氏名又は名称及びその関係
・飲食等に参加した者の数
・その費用の金額並びに飲食店等の名称及び所在地(店舗がない等の理由で名称又は所在地が明らかでないときは、領収書等に記載された支払先の名称、住所等)
・その他参考となるべき事項

交際費等の額は、原則その全額が損金不算入とされていますが、資本金の多寡に応じて経過措置が設けられています。
(1)期末の資本金の額又は出資金の額が1億円以下の法人
次のうちいずれか有利な方を損金算入限度額として選択できます。
800万円×事業年度の月数÷12
交際費等のうちの飲食費の50%
(2)期末の資本金の額又は出資金の額が1億円超の法人
交際費等のうち飲食費の50%

【参考】国税庁:交際費等の範囲と損金不算入額の計算

関連コラム:使途秘匿金の税務上の取り扱い

 

債務確定主義

法人税法では、恣意性排除及び課税の公平性の確保する必要があるため、減価償却費を除く費用項目(売上原価、販売費及び一般管理費、損失の額)について債務確定主義を採用しています。債務確定主義では、法律上の裏付けによる権利・債務が確定した時点をもって計上を行います。発生主義では、収益・費用の発生を経済的事実に基づいて費用計上を行いますが、債務確定主義のように法律上の裏付けを必ずしも必要としません。
企業会計では期間損益計算を適正に行うため、将来発生することが見込まれる費用を引当金として見積計上しますが、債務確定主義を採用する法人税法では別段の定めを除き、損金の額に算入されません。

法人税法上、債務が確定しているものとは、以下の要件の全てに該当するものをいいます。
1.当該事業年度終了の日までに当該費用に係る債務が成立していること。
2.当該事業年度終了の日までに当該債務に基づいて具体的な給付をすべき原因となる事実が発生していること。
3.当該事業年度終了の日までにその金額を合理的に算定することができるものであること。

債務確定主義と発生主義の相違点としては、賞与引当金及びその法定福利費の未払計上分が該当し、別表四で加算処理されます。

なお、所得税法においても、売上原価、販売費及び一般管理費はその年において債務が確定しているものに限るとされており、債務確定主義が採用されています。
所得税法上の確定債務は、以下の要件の全てに該当するものをいいます。
1.その年の12月31日までに債務が成立していること。
2.その年の12月31日までにその債務に基づいて具体的な給付をすべき原因となる事実が発生していること。
3.その年の12月31日までに金額が合理的に算定できること。

【参考】国税庁:販売費、一般管理費その他の費用における債務確定の判定

関連コラム:法人設立時の提出書類